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低利100年国債で中央突破 (2016年9月版)

日本の財政赤字問題に対して様々な議論が交錯している。GDPに対する債務残高(一般政府)の比率(2015年・概算値)は日本229%、イタリア161%、フランス120%、英国116%、米国111%、ドイツ79%になり、日本の数値は突出している。日本の普通国債残高(17年3月末見込み)は約838兆円、16年度見込みの租税及び印紙収入・その他収入は約62兆円、普通国債残高は年度収入の13.5倍の水準になる。

 

借金の最大の恐さは残高が拡大すると利払い費が肥大化していく事だ。日本の普通国債残高は1984年度末で122兆円、同年度の利払い費は8.7兆円であった。これが15年度末では805兆円と6.6倍になっているが、同年度の利払い費は8.8兆円になっている。毎月発行される利付き国債10年物の平均応募者利回りは84年度が7.210%、15年度は0.322%だ。要はどれだけ借金をしても金利が大幅に下落したため、利払い費が全く増えなかった事が財政危機を誘発しなかった最大の要因だと思われる。

 

なぜ、金利が上昇しなかったといえば物価が上がらなかったからであろう。92年12月から16年7月まで日本の消費者物価指数(除く食料・エネルギー)はほぼ横ばいになっている。物価が上がらなかった主因は日本の10倍の人口を持つ中国が改革開放経済を推進し、社会主義経済から膨大な労働人口が解放されたからであろう。これが東南アジア等にも波及する事で、一定水準の学力を持った労働人口が東アジア経済圏で飛躍的に増加し、突出して高水準にある日本の労働賃金を抑制し、コストプッシュインフレの循環を妨げた事で物価の停滞が長期化したと推察している。

 

日本の財政赤字問題の結末で最も危惧しているシナリオは、このまま政府債務の積み上げが進み、日本との平準化で新興国の賃金・物価の上昇が進行し、いずれ日本にも物価や金利の上昇の波が押し寄せる事だ。その時の財政赤字の残高が今のように巨額であれば利払い費が急増し、借金の重みが一気に顕在化するであろう。大手格付け機関の日本国債の格下げやヘッジファンド等の投機筋による日本の国債の売り崩しが懸念される。

 

国債の急落は金融機関の経営に大打撃をもたらすであろう。それは日本経済全体の危機につながり株価の暴落から、株式運用を大幅に増やした日本の公的年金に巨額の運用損が発生し、年金の円滑な支給にも多大な影響をもたらすと思われる。追い詰められた状態で日本銀行が国債を買い支える等の政策を実施しても格付け機関が日本の国債を大幅に引き下げ円が急落し、金利がさらに上昇して利払い費を増加させる悪循環が発生するであろう。現状放置は極めて危険な道になるとみたい。

 

経済の重石になっている財政赤字を解決する秘策はないのであろうか。低利(年利0.1%)で償還期間100年の国債を発行し、それを日本銀行が引き受ける事を最初に提唱したのは岩下有司中京大学名誉教授(当時・同大学教授)であり、1998年9月1日付の読売新聞の〈論点〉において紹介されている。岩下先生の低利100年国債の独創的な論点に感銘を受けた筆者は低利100年国債と100年インフラを組み合わせる事をテーマとした《証券市場見聞録・低利100年国債で「日はまた昇る日本経済を構築」》を04年12月に上梓している。

 

最近話題のヘリコプターマネー政策とは国が元利払いの義務を負わない無利子永久国債等を発行し、これを日銀が全額引き受けるというものだが、無利子や永久というのは無節操な財政拡大につながり、特に発行額を絞った小出しのヘリマネ政策は最悪の金融政策になるとみたい。0.1%という金利を付け、100年という期限を設定した国債を発行し、現在、日銀が保有しているものや今後、買い付ける国債を全て低利100年国債に切り替えるべきであろう。

 

日本は対外純資産残高を339兆円超(15年末、25年連続世界1位)保有し、今年1~6月で10兆円以上も稼ぐ経常黒字大国だ。ポンドやユーロが英国のEU離脱問題で不安定になっており、投機筋も円や日本国債を標的にするのは困難であろう。現状は絶好のチャンスとみたい。財政赤字の残高はこの方法で解決に導き、財政規律を守るためにも単年度の赤字は国民も一定の増税等を受け入れて将来的な黒字化を目指す事が肝要だ。財政赤字の解決は低利100年国債で中央突破を図るべきであろう。

 

 

(北川 彰男)

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