家計金融資産のこれから (2026年8月版)
大幅な上昇を記録してきた日本株も、けん引役のAI・半導体関連株に調整色が強まり、上値の重い展開となった。ただ足元の調整を、上昇相場の一環とすれば、好業績の製造業やIT企業が見直されることで、息の長い上昇相場となりうる。
日銀の2026年1-3月期資金循環統計によれば、家計金融資産総額は2,385.7兆円と、前年同期に比べ158.9兆円の増加となった。株式等は、株価上昇を受け88.6兆円、投資信託は3.9兆円の増加だった。NISAやiDeCoの優遇税制も追い風となり、より押し上げた格好となった。債券も、国債や社債への流入で4.9兆円、現金・預金は6.7兆円増加となったが、家計金融資産に占める現預金比率は昨年6月末に50%を下回り、今回で 47.2%まで低下した。
日本の現預金比率の高さは、以前から指摘されており、インフレでなければ現預金を保有していても実質的な目減りはないため、一定の合理性があった。だが足元では、国際情勢緊迫化を背景にインフレが進行しており、実質的な目減りによる影響も顕在化している。今や、それぞれの将来に向けた家計の状況やリスク許容度に応じた資産の見直しを行うことが求められている。
家計金融資産の構成に影響を与える要因は、様々であった。証券投資の期待リターンの低さや優遇税制導入の遅さ、金融リテラシー不足による投資に対する姿勢、低インフレ率などが起因したと思われる。引き続き取り組むべき事象もあるが、NISAやiDeCoの投資優遇税制導入や期待リターンの上昇など、取り巻く環境は変化している。リテラシーの向上も、金融経済教育推進機構の本格稼働から2 年近く経過し、普及と活用の後押しは、徐々に広がっている。
先頃、政府が新しい成長戦略に「2040年までに家計金融資産における株式・投資信託・債券の割合を4割へ」、とする新目標を掲げると報じられた。今年3月末時点での数値は、25.1%に過ぎないため、目標に向けた後押しが必要とみられ、「子どもNISA」解禁や、対象商品の拡充、定期売却の手数料容認を皮切りに、今後も個人向け国債の購入促進や社債市場の活性化など、引き上げに向けた政策が検討されている。
「貯蓄から投資へ」を推進することは、家計の行動と経済や金融市場に影響を及ぼす。プラス効果として、家計にとっては、インフレへの耐性を高める効果が期待される。物価上昇率が預金金利を上回る局面では、現預金だけでは実質的な購買力は目減りするため、長期保有できる余裕資金を、株式、投資信託、債券に振り向けることで、インフレ防御策となる。家計の金融所得を多様化することは、株価の上昇や配当、投信分配金などを通じて、経済成長の果実を賃金以外の経路でも享受し得る。それは、企業の成長資金やリスクマネーの供給基盤を厚くすることにつながり、株価や社債市場を下支えする要因ともなる。すなわち、この家計資産形成策は、資本市場を通じて企業部門と家計部門をつなぐ政策でもある。
マイナス効果は、変動リスクによって将来必要となる教育や、住宅購入、老後資金などが、市場実勢の影響を受ける可能性がある。リターンに対する期待が高まる一方で、下落リスクによりプランの修正を余儀なくされる場合もある。家計資産が市場に連動することで、家計のバランスシートを通じて、消費に波及することが予想される。これまで日本の家計は、市場変動から距離を置くことで安定性を保ってきたが、家計金融資産の4割が変動するとなれば、今後は注意が必要となる。
そのほか、経済や金融市場、個々の資産の事情によって、投資の資金規模や機会に恵まれる家計と、難しい家計との間での資産格差が拡大するおそれがある。資産価格の上昇は、すでに金融資産を保有している家計には恩恵となるが、原資を持たない家計には届きにくいため、格差の拡大が社会問題となる可能性も考えられる。また、金融資産全体に占める70 歳以上の世帯保有割合が、約 37%にのぼる点も注意したい。高齢者は、単に金融資産を多く持っているだけの状態で、年齢を重ねても資産残高があまり減少しない傾向にある。現役時代からの貯蓄偏重と、年金や医療・介護費用に対する不安や、相続を意識しながら長寿化に備える行動を取りやすい。合理性はあるものの、消費や生活満足度の向上に使われないまま温存されれば、資金循環にとっての課題として残る。
政策目標の40%実現は、不確実な部分も多いが、家計資産に占める株・投信・債券への流入の動きは、今後も続くとみられる。
(戸谷 慈伸)

























