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未来を担う金融経済教育 (2024年4月版)

日銀の大規模金融緩和が終焉し、金融正常化時代の到来となった。日経平均4万円台という新しい景色の中、株式投資には今まで以上に選別の目が必要となるだろう。

 

名古屋市内の小学校で思いもよらぬ出来事が起きた。男子児童が、「価値が上がる」と複数の同級生に誘われて、記念メダルや外貨の買取りに約93万円を支払ったという。お金は、入学祝やお年玉などを貯めていたもので、本人の吹聴とともに大きなトラブルに発展した。今回、保護者もお金の教育をしなければいけなかったと悔やんでいるそうだが、改めて子ども世代からの金融教育の必要性を感じる出来事であった。

 

金融や経済に関する知識や判断力のことを、金融リテラシーと呼ぶ。2022年金融広報委員会の調査では、金融経済教育を受けたと認識している人の割合は、7.1%にとどまる。金融リテラシーの水準は、所得や金融資産の水準と相関関係があると考えられており、そもそも教育を受けなければ、知識や判断力が低いままで、資産形成や金融に対して考えないのは当然の結果といえる。元来、日本では教育ではなく経験で学ぶという側面が強かったが、若い世代からの金融経済教育は、リテラシー向上に効果があるとして、国を挙げた見直しを開始した。2021 年度から中学校の社会科で金融経済教育を開始、翌年度から高校の公民科や家庭科に拡充された。以前から高校の家庭科では、保険や株式といった基本知識の内容はあったが、新指導要領では資産形成の内容を拡充して債券や投資信託の内容や、メリット、デメリットについても学ぶよう変更された。また、官公庁をはじめ学校や企業などへの講師派遣や、一般向けの金融経済に関する教材提供などの施策も増やし、本格的な金融経済教育が始まっている。

 

昨年 11 月「金融商品取引法等の一部を改正する法律」が国会で可決・成立し、安定的な資産形成の支援推進の基本方針を盛り込み、今年2月に施行・適用となった。同時に、官民一体で金融経済教育に取り組むことを目的とした「金融経済教育推進機構」が4月設立、今夏にも本格的に始動する運びとなった。金融庁や日銀をはじめ、全国銀行協会、日本証券業協会、投資信託協会など、各団体から関連事業を移管し、これまでの重複した取組みを解消、効率的かつ効果的な金融経済教育の実現を目指すこととなった。国民の所得や金融資産の水準向上に役立つとした今回の設立は、金融立国へのスタートを切ったといえるだろう。

 

設立される金融経済教育推進機構の取組みとして、6つの項目が挙げられた。①顧客の立場に立ったアドバイザーの普及・支援。②金融経済教育活動の重複排除・抜本的拡大。③金融経済教育の質の向上。④教材・コンテンツの充実。⑤個人の悩みに寄り添ったアドバイスの提供。⑥調査・統計を踏まえた戦略的な教育の展開である。

 

内容的には、気軽に相談できる環境の整備や講師派遣事業の全国的拡大、認定アドバイザー向け養成プログラムやアドバイザーによる個別相談など、利用者の立場に立った金融経済教育の提供が目的とされている。

 

また同時に注意すべきは、利用者において「金融経済教育=投資教育」という誤解を生じさせないよう努めることも必要である。取組みには、貯蓄から投資へと促す役割が期待される反面、家計における資産の投資に限らず、住宅ローンやクレジットカードのような負債面も金融経済と関わりを持つことも周知させなければならない。資産形成は、それぞれの年代において、投資目的や状況に合わせて自身の判断で実施していくべきものであり、教育の場面では、幅広く学びながら、資産と負債の両面で金融商品を活用する知識として身に付けることが重要である。たとえ投資によってお金を増やしても、家計管理がおろそかで、身の丈以上の支出をすれば、資産形成はできない。また疑わしい投資勧誘に対して、判断能力がなければ、投資を騙った詐欺被害にあう可能性もある。実際の資産形成には、投資自体に関する知識だけでなく、適切な家計管理と投資に関するトラブルを学ぶことが重要であることを忘れてはならない。

 

世界的に日本の株式市場が見直される中、新NISAの利用も、メリットばかりでなくデメリットについても理解したうえで投資に臨むことが重要となる。日本が金融立国を目指すためには、金融経済教育の普及とリテラシーの向上は不可欠である。

 

(戸谷 慈伸)

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