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新型コロナウィルス後の世界 (2020年5月版)

感染症の脅威が世界に拡大して、3か月を迎えようとしている。6日に予定されていた緊急事態宣言解除も延長の見通しとなり、SARS(重症急性呼吸器症候群)時のような約半年間での完全制圧の可能性は低く、終結への道程は長い。数か月間で今回の感染症は、世界の人々に社会的、政治的、経済的に甚大な影響を及ぼしている。

 

今年の世界のGDPは、年単位での低下が見込まれている。国際通貨基金(IMF)は、20年の成長率をマイナス3.0%へと下方修正しており、回復のシナリオを想定するのは時期尚早かもしれないが、少し検討しておきたい。1.一時的に経済生産が落ち込んでいるものの、成長サイクルを取り戻し、年間成長率が完全に回復するパターン(V字型)。2.ショックの影響が長引き、成長サイクルは動き始めるが、完全な回復となるのが緩やかなパターン(U字型)。3.感染症が社会構造にも被害を与え、回復へ向い始めるが、労働・資本・生産への影響が長引くパターン(L字型)。ここでは3パターンを想定したが、元々、景気は循環的習性を持つものの、今回の人々への逆資産効果やマインドの低下、生産、輸送をはじめとした供給面の混乱から、回復は②のように緩やかなものになると思われる。同時に、現金同様の金利の下では金融調節による効果への期待も大きくはないであろう。

 

感染症の歴史は都度、社会の変革に影響を及ぼした。14世紀、ペスト(黒死病)の流行時には、貨幣経済の発達と人口の急減により荘園領主と農民の関係性を逆転させ、中世社会崩壊を招いた。また、ペストの脅威を防げなかった教会の権威も失墜し、宗教改革のはじまりとなった。20世紀初頭のスペイン風邪では、第一次世界大戦の終結を早めることとなったが、兵士の帰国が感染拡大を世界各地にもたらした。また03年のSARSは、中国人の大多数が外出を控え、小売・飲食業が影響を受ける一方、アリババグループの淘宝網(タオバオ)など、電子商取引の急成長の一因となった。今回の新型コロナウィルスも、ワクチンなど医療の開発とともに、デジタル技術の活用推進がマーケットでは注目されている。

 

現代社会が、グローバル化により複雑に関係し合っていることが、今回の感染症で再認識された。今の経済の特徴ともいうべき、サプライチェーン(供給網)のグローバル化は、企業が製造拠点を世界各国に委託、各国から必要な時に、必要な時だけ調達・提供できるシステムとして国際協調の上に構築されてきた。しかし今回、絡み合う他国の感染が収束しない状態では人の往来をはじめ、部品調達の正常化や、稼働率の上昇も困難の状況が続いており、見直しの機運が高まっている。

 

国内企業の中には、マスクや部品のように、コストを増やしても国内回帰やサプライチェーン見直しを選択する可能性も考えられる。こうした動きは逆行的、自国主義的に映るが、安心・安全を担保する必要性を考えた場合、危機管理上では重要である。また、別の側面では日本が目指すSociety 5.0社会のIoT、ロボット、5G、AIなどDX(デジタル・トランスフォーメーション)の進展を早める契機とも考えられる。今回の感染対応で、中国では消毒、薬の配達、食事の配膳、医療廃棄物の回収にロボットが導入された。顔認証や1分間で200人の体温を測定するシステム、症例を学習した診断システムには、AIの特徴ディープラーニングによる画像認識も導入されている。見習うべき点も多くあるだろう。また、テレワーク(在宅勤務)、オンライン診療、オンライン授業といった対応で、Society 5.0で推奨されるリモート社会への動きも始まっている。今回の新型コロナウィルスを経済の停滞という、負の部分のみを捉えるだけではなく、サプライチェーンの再構築によるリスク分散と危機管理体制の強化、広範囲にわたるSociety 5.0、DX推進の好機と捉えてゆきたい。

 

今回の感染症拡大による世界各国の入国規制は、ヒト・モノの移動を遮断し、海外での生産活動、部材調達のリスクを思い知らしめる格好となった。今後、国際分業の見直し機運は、各地で起こるだろうが、国際協調や自由貿易を阻害し、グローバル化の流れを巻き戻すことにならないことが望まれる。

 

トランプ政権の自国第一主義のように、各国が保護主義に走るのではなく、新型コロナウィルスを連携の鎹(かすがい)として、国際協調、相互扶助を目指す社会を願う。

 

(戸谷 慈伸)

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