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消費税率引き下げ (2025年6月版)

米中の関税政策歩み寄りによって、トランプ大統領が他国にも柔軟姿勢を見せるのではとの期待感から、足元では世界経済への不安が後退し、日経平均株価は38,000円近辺での一進一退が続いている。

 

7月の参議院選挙を前に、消費税率引き下げに関する議論に注目が集まっている。米価をはじめとする物価高や、トランプ関税による生活への不安を背景に、分かりやすい政策を選挙公約に掲げたい思惑もあるようだ。石破総理の言及をきっかけに、各党が物価高対策の一環として消費税率引き下げを標榜している。物価上昇による増収分の引き下げを望む声が多いが、政治日程上、現実には最短でも来年度からとなるため即効性には欠ける。総理は当初のコメントを改めて、減税を否定したものの、国民民主党は一時的に税率を一律5%、立憲民主党は食料品の税率を1年間0%、日本維新の会は食料品の税率を2年間0%に引き下げる案を表明し、選挙に向けてその勢いは増している。世間でも消費税減税が物価高対策の一つのように喧伝されているが、ガソリンや電気・ガス代への補助金政策や公定価格の引き下げとは、異なることには注意したい。

 

消費税は、基幹3税(所得税、法人税、消費税)の中で最大の税目であり、2024年度見込額で約34%(24兆3,430億円)を占める。税収入増加の要因は、2019年安倍政権時代の8%から10%への引き上げに加え、コロナ禍からの経済正常化による消費回復や、世界的な物価高による輸入品価格上昇などが考えられる。法律上では、年金、医療及び介護の社会保障給付、並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものと定められており、例えば基礎年金の半分には消費税収が充当されている。

 

消費税率を引き下げる場合、メリットと考えられるのは、消費をする全ての人に公平であることだろう。所得税とは違い、それぞれの消費額に応じて減税されることとなるため、公平性が保たれる。また、一部が貯蓄に回る可能性がある給付金や所得税減税と違い、消費しなければ発生しないため、需要創出の効果が高いとも考えられる。消費税減税分を貯蓄に回す動きも一部にはあるだろうが、減税分による追加の消費が増える可能性のほうが高いだろう。もともと消費税は逆進性の強い税制、つまり低所得者には相対的に負担が重い税制である。減税によって逆進性を緩和することは、中低所得者の家計を支援するという目的には適うといえる。

 

一方のデメリットは、食料品の消費税率をゼロとした場合、年間約5兆円規模の減税が想定される。しかし、家計支援や需要創出を目的とした手段として、安易に消費税減税を利用することの良否である。税率0%に引き下げたものを再び8%に引き上げることは、不可能に近いものがあり、政治的にも大きな困難が伴うと考えられる。また恒久的な減税となった場合、その税収規模の大きさから新たな社会保障のための財源を見出す必要性が生じるだろう。

 

実際に消費税が減税された場合、増税時とは逆の現象が起こることも考えられる。駆け込み需要の反対、いわゆる買い控えである。たとえば、年末商戦に合わせるように減税を実施した場合、その前の夏には旅行をはじめ、クルマや家など高額消費は手控えられる恐れがある。そうなれば、おそらく旅行会社や個々のメーカーは値引きを余儀なくされることも想定され、経済的な効果は薄らいでしまう。食料品に限定した場合も、税率が下げる前は食料品を買い控え、もとに戻る前には冷凍食品の買いだめをするような消費の変動が起こり得るだろう。飲食店の場合、食材は非課税の仕入れとなるが、光熱・住居費には 10%の消費税が課税されるため商品価格やその他のサービスに転嫁できない可能性もある。逆に仕入れ食材が0%になっても、自らのマージンを確保しようとすれば、サービス価格は税率引き下げ分だけ下がることはないと推察される。結果的に、世間では消費税率が下がったのに価格が下がらないという批判が起こりうるとも限らない。また、税率変更による値札や会計ソフトの書き換えなど、消費者側だけでなく事業者側への影響も見逃せない。最近こそ市場の金利は落ち着いているが、趨勢は上昇傾向での推移が続いている。消費税率引き下げが決まり、それに伴う税収減少となれば、金利の上昇懸念にも注意が必要となる。

 

消費税の見直しは、短期的な経済対策として短絡的に税率の引き下げを実施するよりも、税制全体の改革を通して、その位置づけから構築、検討することが重要に思われる。

 

 

(戸谷 慈伸)

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