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金価格の行方 (2025年8月版)

懸念されていた参院選と日米関税交渉という不確実性の後退により、日米の株価は上値を狙う動きを見せている。

 

ここ数年、様々なニュースで金価格の上昇を目にする機会が多い。過去25年間で国内小売金価格は、2000年1gあたり約1,000円前後で取引されていたものが、今年4月末現在の田中貴金属店頭小売価格では16,788円(税込)とおよそ16倍以上に上昇、最高値水準となっている。特に20年代以後の上昇幅は著しく、今もその動きが続いている。

 

古来より金は世界中で重宝されており、希少性と加工のしやすさから、鋳造貨幣の材料として利用されてきた。埋蔵量が限られるなかで、生産に制約があり人工的に作ることも難しい。錆びのような劣化もなく、時が経っても価値が下がりづらいことなどを理由に、長年、信用力を担保に歴史上の投資対象とされてきた。

 

金には、様々な特徴がある。まず実物資産として、そのもの自体の実用性と使用価値である。性質上、熱や電気の伝導性が高く、加工のしやすさから広く産業用として用いられており、ハイテク機器の材料として必要不可欠で、技術進歩とともに需要は拡大している。嗜好品としても世界的に宝飾品などで重宝されており、2000年以降では経済成長の著しい、インドや中国が二大需要国となっている。

 

また、昔からインフレをヘッジするとして、金融資産との相関性が低いことを理由に投資の対象とされてきた。しかし、2000年代に入るとコンピュータを駆使するCTAと称されるヘッジファンドの登場によって、金や原油をはじめとしたコモディティ市場の投資が拡大、コモディティと金融市場との相関性は高まっている。同じくして、金のETF(上場投資信託)がオーストラリアをはじめイギリス、アメリカなどの証券取引所に相次ぎ上場し、金投資に消極的だった年金基金や個人を中心に、オルタナティブ投資の一つとして注目されるようになった。

 

世界の中央銀行が、ドルやユーロの主要通貨以外に外貨準備資産として金を保有していることは、昔から有名である。万が一、国の信用不安による通貨価値の下落リスクが高まった場合に、下落を防ぐ目的で保有されている。そのほか、紛争や恐慌などの社会的不安が起こった場合、株式をはじめとする金融資産の多くは下落するものの、金はその影響を受けにくいため、資産の避難先(リスク回避先)として、逆に価値が上昇する傾向も持つ。

 

2020年以後の金価格上昇の要因を推察すると、世界的なコロナ禍による不安の蔓延や、ロシアのウクライナ侵攻などに代表される金融市場の不安定要因が強まった影響が大きい。実際、ロシアのウクライナ侵攻後に、各国の中央銀行の購入量は大幅に増加しており、侵攻後の年間購入量の合計は、金の年間生産量の3割近くに及ぶ。3月末の外貨準備に占める金の保有割合をみても、欧州主要国のドイツ、イタリア、フランスでは70%を上回っており、基軸通貨である米ドルの保有率よりも高い。同様に、新興国でも米国がロシアの保有する米国債を凍結したことをきっかけに、外貨準備の中心としていた米ドル及び米国債を敬遠し、無国籍の資産である金投資へ傾斜していることが、価格上昇の背景にあるとみられる。

 

ウクライナや中東の地政学リスクの高まりと並行して、各国の財政悪化の影響も考えられる。とりわけ米国の財政赤字を懸念する声は多く、5月には米ムーディーズが、米国債長期信用格付けを最上位から1段階格下げしており、トランプ2.0による減税の恒久化や、法人税率引き下げ、社会保障給付への課税廃止などの法案通過によって、約36兆ドル(約5,220兆円)ある公的債務は今後も一段と膨張を続ける公算が大きい。米国の財政支出拡大は、基軸通貨ドルの供給量増加とともに、価値の下落を意味しており、金の供給に大きな変動がなければ、金の価値が上がると素直に考えられている。

 

米国の国債残高の金利は、およそ平均で3.36%と推定されている。年内の借り換え債だけで9.2兆ドル、向こう3年間で50%の国債が満期を迎えるため、現状の中長期債利回りが続いた場合、利払い額はおよそ2兆ドルに達する見込みとして警戒されている。ベッセント米財務長官は、利回りの抑制を最重要課題に掲げており、トランプ大統領がFRB議長の交代を急ぐのも極めて当然といえるだろう。

 

以上を踏まえて、マクロ経済を取り巻く不透明感が続けば、ヘッジとして資産の裏付けを持つ金価格は、当面は高値水準を続けることになりそうである。

 

(戸谷 慈伸)

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