期待される物価高対策 (2025年12月版)
AIをテーマに上昇した今年の株式市場も、年末を前にして見方が二分し、5万円を挟んだ小康状態になりつつある。政府は積極財政を掲げ、20兆円を上回る規模の経済対策を策定、期待に応える成果が問われる時を迎える。
先月発表された厚生労働省の毎月勤労統計調査(速報)によれば、9 月の実質賃金は前年同月比1.4%減と9 カ月連続で前年を下回った。現金給与総額は、賞与を含む特別給与や所定外給与(残業代)と所定内給与(基本給)の増加によって、実質賃金のマイナス幅は縮小傾向にはある。今年の春闘も昨年を上回る賃上げ率となったにもかかわらず、依然、下回る背景には、物価上昇とともに春闘に参加していない企業の上昇率の伸び悩みも一因と考えられる。連合(日本労働組合総連合会)は、来年度の賃上げ目標も同様の5%以上としており、3年連続の賃金上昇が見込まれている。賃金の伸びが追い付かない状況が続き、個人消費も足踏み状態の中、政府が最優先に掲げる物価高対策の迅速な実施によって、実質賃金のプラス圏への浮上が期待されている。
政府による物価高対策の主なものとして、ガソリン暫定税率廃止、電気・ガス補助金、おこめ券・クーポン券の活用、児童手当の上乗せ、給付付き税額控除制度導入などが現在、検討されている。
旧暫定税率廃止は、与野党ともガソリンを年内に、軽油を来年4 月に廃止する方針で合意済みで、今国会での法案成立の見通しとなっている。ガソリン税の旧暫定税率は、第1次オイルショック時に導入されたもので、当初は道路特定財源として位置付けられていたものが、現在は一般財源化している。ガソリン価格は、本体価格+ガソリン税+石油石炭税+地球温暖化対策税+消費税であり、今回の措置で暫定税率分25.1円が値下がる一方、補助金10円が廃止され、差し引き15.1円が値下がりする予定となる。ガソリン税の廃止による年約1兆円の税収減分については、法人税の租税特別措置や高所得者の負担見直しによる補完が検討されている。
電気とガスの補助金については、来年1月から3月までの3か月間実施される見込みで、現段階で詳細は明らかではないが、一般家庭で6千円超の負担減見通しで、今年1月から2月に実施されたものに上乗せとなる格好となる。
おこめ券の活用も経済対策に盛り込まれる見通しで、一部の自治体では既に地方交付金を活用した配布がされており、政府も交付金を拡充し、おこめ券やプレミアム商品券による活用を推進する見込みである。だが、コメ価格の安定化目的と受け止められた場合は、価格高止まりに対する不満が残る可能性もある。
児童手当の上乗せは、前政権が掲げた国民1人当たりを取りやめ、子供1人当たり2万円の現金給付を所得制限なしで増額する方針で検討されている。
中期的な経済支援策である給付付き税額控除については、定額減税の考え方から踏み込んだ、減税と給付を一体化する制度である。従来の減税では、納めている税金の範囲内でしか負担軽減ができなかったものが、この制度では引ききれない分を現金で補うことが可能となる。また、設計次第では子どもや扶養家族の人数に応じて給付を増やすことも可能となり、子育て世帯の支援強化や所得に応じた段階的な控除によって、幅広い減税効果が届きやすいと考えられる。ただ制度導入には課題も多いため、総理自身も制度設計や対象、所得の捕捉などのシステム整備が必要であり、数年単位の時間を要すると発言しており、今の家計をすぐに支える対策としての実現性は低い。話題となった低所得層に絞った給付金や、所得税の課税最低限の引き上げ(年収の壁)、食料品に対する消費税ゼロについては、連立合意の中で実施しないことが決まっているが、物価高対策の一環としては排除せずに今後も検討を続けるべきであったようにも思われる。
アベノミクスから時間を経て、継承者を自負する高市首相は、3本目の矢を踏襲する形で「強い経済を責任ある積極財政の下、日本経済の供給構造を強化、所得増で消費マインドを改善し、事業収益拡大で税率を上げずとも税収を増加させる」としたサナエノミクスを提唱した。
デフレから物価高へと変わりつつある中で、国民生活を守るには常に優先して制度改正を検討し実施すべきである。現在の支持率は政府の実行力に対する期待の表れといえる。物価高対策の成果に期待したい。
(戸谷 慈伸)

























