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インフレで変わる資産運用 (2023年11月版)

中東情勢緊迫化で原油市場が上昇、米国のインフレ再加速懸念もあり、投資家のリスク回避姿勢が強まっている。日経平均株価も、不安定な動きを続け、円相場も再度1ドル=150円台に下落している。円安の恩恵がある輸出関連物色も考えられるが、積極的な買いは手控えられそうだ。

 

日本は今、およそ四半世紀続いたデフレからインフレへの転換期を迎えている。消費者物価指数(総合ベース)は、2021年9 月から連続で前年同月比プラスを記録、22 年8 月からは3%を上回り推移している。指数ベースでは約6%の上昇だが、消費者の実感はそれ以上と思われる。

 

日銀調査では、1 年前に比べ物価が上昇したと回答した人は9割を超えている。消費者の実感が大きいのは、食料品や光熱費などの基礎的支出品目の上昇が、選択的支出品目より先行したことや、それらの上昇率が大きいためと推測される。同時に、賃金の上昇が物価に追いついていないため、実質賃金の目減り(17か月連続、8月時点)が影響していると考えられる。

 

こうした中、家計の支出行動は、より価格を意識したものとなりつつある。2020 年を100とした家計消費支出は、今年3 月以降6か月連続で100を下回っており、物価上昇に対し支出を抑制している。具体的な家計行動には、品数を減らすことや、PB 商品などの相対的に安価な物への切り替え、といった行動が見られる。行動の変化は、支出面だけにとどまらない。世間では、物価が上がれば保有資産が目減りするという言葉が聞かれるようになり、金融行動にも変化が生じている。

 

日銀資金循環統計によれば、6月末の個人金融資産残高は2,115兆円(前年比+92兆円、+4.6%)と3四半期連続で過去最高を記録した。資金純流入額19兆円と時価変動分73兆円(うち国内株式+57兆円、投資信託+9兆円)により、大きく資産残高は押し上げられている。同四半期の定期性預金は、例年を上回る規模で流出 (約3.4兆円) しており、投資信託や外貨預金などの変動商品への流入が顕著となった。つみたてNISAなどの積み立て投資の普及も背景に、投資信託は1.6兆円の純流入(13四半期連続)と息の長い資金の流入が続いている。金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」には、20 年頃から金融商品の選択や投資に対する、家計の金融行動のリスクテイクの度合いに変化が表れている。21 年以降、安全性や流動性以上に収益性を優先する人が増加し、今後の保有については預貯金のトップは変わりないが、株式と株式投信への希望者が増加しており、証券投資について必要と答える人は21 年には3 割を超え、お金は貯めるだけでなく、増やす方向へと意識が向かい始めている。NISA の口座数は、18 ~22 年で1.5 倍強に増加しただけでなく、積み立て投資設定金額も大きく増加してきた。これからの家計の資産運用は、環境的にも増加基調を辿ることが想定される。

 

ひとつには、雇用所得環境の改善と賃上げの流れにより、運用の元手が増加する可能性である。実質賃金のプラス転換はもう少し先かもしれないが、世帯内勤労者数が増えて可処分所得が増加し、運用資金の捻出につながることが考えられる。

 

つぎに、国を挙げた金融教育推進により、全体の金融リテラシーの底上げが、知識不足を理由に投資をためらう人を減らすことにつながるだろう。そして、2か月後には新 N ISA がスタートし、非課税投資枠の大幅拡充と無期限化が実現する。同時に取扱金融機関や、運用対象となる株式や債券の発行体が様々な顧客獲得策を展開する。証券各社では、投資信託の販売手数料引き下げや、ネット証券大手による日本株の売買手数料無料化も始まっており、上場企業側でも、株主優待の拡充や取引単位引き下げが進められている。

 

平成から令和と変わり、2000年代も四半世紀を迎えようとしている。90年代のバブル崩壊やリーマンショックを経験し、投資運用での損失体験がある世代の間では、ある種のアレルギーやトラウマを持つケースが少なくないだろう。しかし、現在の20 代~ 30 代の世代には、こうした記憶や感覚は薄く、株式や投資信託に対する警戒感は、 50 代や 60 代と比べて低いと考えられる。生産年齢人口の中心世代となってゆく今後には、インフレ下での柔軟な資産運用を行いやすいのではないか。

 

インフレへの転換とともに、若い世代の資産運用への参加による新しい投資家の誕生に期待したい。

(戸谷 慈伸)

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