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自動車産業変革の波 (2020年11月版)

先月の日銀短観(9月調査)は、大企業・製造業の業況判断DIが7期ぶりに改善した。小幅ではあったが非製造業も改善し、内外の経済活動再開や、世界経済の底入れに伴って、回復の兆しを見せ始めている。自動車を中心にして関連の素材(鉄鋼、非鉄金属)や、搭載される半導体、電子部品の需要も回復し、5G需要とともに電気機械の業況も改善した。だが、本当の回復はまだ先になりそうである。

 

日本株式会社の中心に位置する自動車産業だが、100年に一度の大変革が到来している。2年前、豊田章男社長が語った「これまでにないスピードと大きさで変化しており、一刻の猶予も許されない、まさに待ったなしの状況」が現実のものとなっている。デジタル化の潮流があらゆるものを飲み込み、自動車産業で進むCASE(Connected=コネクテッド、Autonomous=自動化、Shared=シェアリング、Electric=電動化)の進展や、欧米、中国における環境規制など、まさに渦中に身を置いている。

 

世界の自動車メーカーの中、EV(電気自動車)で注目される03年設立の米テスラは、時価総額で今年1月トヨタ自動車に次ぎ第2位となり時代の変化の象徴となった。その後、わずか半年の間に世界のトップに踊り出るとともに、8月末に時価総額が4,500億㌦を突破、トヨタの2倍以上となり世界中は驚愕した。9月以降、値下がりしたものの、トヨタ、独VW(フォルクスワーゲン)、米GMの合計額を上回っている。

 

現行の株価理論では全く説明のつかない上昇である。事実、昨年世界販売実績1,000万台超のトヨタに対し、テスラは37万台弱の販売で、純損益も赤字であった。コロナバブルとみなすマーケット関係者も多い中、環境・エネルギー問題を背景に、カリスマ経営者の存在と最先端技術、そして成長期待が株価を押し上げている。

 

CASEのEは当然のこと、Cのコネクテッドでテスラは先行している。すべてのテスラ車はインターネットに接続され、OTA(オーバー・ザ・エア)と呼ばれる通信による制御機能や、自動運転支援に関するソフトウェアをアップデートするオプションは高評価を得ている。また、運転席横の大型タッチパネルでナビゲーションや走行性の調整などの設定・操作を可能にし、スマホ並みの操作性もユーザー人気の理由の一つである。代表車「モデル3」の走行性能は、4WDタイプでポルシェ以上の加速力と、航続距離500㌔以上を示し、ガソリン車にも引けを取らない。自動運転につながる高度運転支援は、OTAによって購入後でも機能が追加され、レベル3が実現できるハードウェアも搭載されている。

 

CEOのイーロンマスク氏は、元々、エンジニアであり、米ペイパルの創業者であった。また、宇宙開発企業スペースXのCEOでもある同氏は、テスラは将来「持続可能なエネルギー企業」を目指すと公言する。自動車にとどまらない再生可能エネルギーや、蓄電技術分野の開発・利用を目指すビジネスがゴールであり、ユーザーや投資家はその考え方に共感を示している。

 

環境規制は、世界的な潮流である。EU(欧州連合)は、来年より「CAFE規制」と呼ばれる排ガス規制厳格化を導入する。また、50年までに温室効果ガス排出の実質ゼロ化を目指す「欧州グリーン・ディール政策」を発表、EV充電網の拡充などの支援策を実施の予定で、すでに業界ではテスラの独進出、欧州メーカーのEVモデル拡大へと矢継ぎ早に舵は切られている。米国では、バイデン候補が再生可能エネルギーを最重要政策の1つとして、米国版「グリーン・ニューディール政策」を表明、EV充電設備の全米50万か所設置の公約とともに、加州では、35年からガソリン車の新車販売禁止の行政命令に知事が署名をしている。中国も新エネルギー車(NEV)への補助金政策を2年延長、車種別のNEV販売では今やモデル3は独走状態である。

 

既存の自動車産業の象徴であるトヨタは、従来のエンジン車の開発・生産と平行して電動化対応を推進する必要があるうえに、自動運転でもリーダー的存在でなくてはならない。すでに欧米の自動車メーカーは、エンジン事業縮小に伴う工場閉鎖や、人員削減が始めているが、トヨタにその選択肢はない。日本経済の回復には、トヨタ自動車の今後の動きがカギを握るのではないか。

 

(戸谷 慈伸)

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