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時節が到来する低利100年国債 (2018年1月版)

謹賀新年。本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。今年の日経平均株価の上値は2万5千円前後と堅調維持を予想しているが、本号では株価の抑制要因の一つである日本の財政赤字問題について考察したい。低利(年利0.1%)で償還期間100年の国債を発行し、それを日本銀行が引き受ける事を最初に提唱したのは岩下有司中京大学名誉教授(当時・同大学教授)であり、1998年9月1日付の読売新聞の〈論点〉において提起されている。岩下先生が低利100年国債を提案されてから長い年月が過ぎているが、それ以降の金融政策は凄まじい変化の連続であった。

 

99年にゼロ金利政策が導入され、その後、日本銀行が国債等を大量に購入する量的金融緩和と呼ばれる政策が実施されている。両政策は一旦、解除されたが、08年のリーマンショックもあり、再度、ゼロ金利政策・量的金融緩和を導入、13年3月に黒田東彦日本銀行総裁の登場で量的緩和は一段と強化されている。そして、16年1月にマイナス金利政策を導入、同年9月には金融政策の目標を量(金額)から金利に転換し、10年物国債金利を概ねゼロ%程度に誘導する政策の導入に至っている。金融の常識では、中央銀行の金融政策は短期金利が対象で長期金利の目標設定はできないとしていたが、日銀の「国債の巨額な購入+マイナス金利政策」で、現状では長期金利の一定の制御が可能になっている。

 

以下は日本の10年物国債流通利回りの主な推移である。90年9月、8.71%。03年6月、0.43%。06年4~5月、2.00%。13年4月、0.315%。13年5月、1.00%。16年7月、マイナス0.30%。そして昨年12月27日時点では0.05%になっている。一連の金融政策は金利の劇的な低下を実現し、一般会計予算の利払い費を減額させ、国民負担を大幅に軽減させる卓越した効果を発揮したと思われる。

 

日本の普通国債残高は1984年度末で122兆円、同年度の利払い費は8.7兆円であった。これが16年度末の国債残高は845兆円と6.9倍になっているが、同年度利払い費は8.5兆円と逆に減少している。毎月発行の利付国債10年物平均応募者利回りは84年度が7.21%、16年度はマイナス0.03%だ。要はどれだけ借金をしても金利が大幅に下落し、利払い費が全く増えなかった事が財政危機を誘発しなかった最大の要因であろう。

 

それでは、現状の超低金利が永続するかといえばそれは無理といえる。なぜなら日銀の金融政策が2%の消費者物価上昇を目標にしており、金利が一定水準まで上昇するのは不可避だからだ。問題は居心地の良い低金利が続くかどうかである。米国の10年国債流通利回り(以下、年平均ベース)の金利の山は、1798年、7.6%。1814年、7.6%。1861年、6.5%。1920年、5.3%。1981年、14.2%になっている。

 

若干のイレギュラーはあるが、ほぼ60年周期で金利の天井を繰り返しており、現在は12年に1.79%(年平均)で大底を付け、昨年12月27日時点では2.408%になっている。過去の金利循環通りの場合、2040年頃まで米国金利は上昇の圧力が掛かる事が予想され、日本の金利も上昇する可能性が高いとみたい。また、詳細は割愛するがアジアの新興国の賃金も10年、20年後には大幅に上昇し、世界的な物価上昇圧力が発生すると思われる。

 

その時点における利払い費や償還が必要な日本の普通国債残高の規模が、日本経済や株式市場の長期的発展を左右するといっても過言ではないと推察している。今でも巨額の借金の残高と毎年の新発国債の発行がある状態で、一定の利子率が掛かるようになれば利払い費のみで巨額な数値になってしまうからだ。累積財政赤字の規模の大きさや今後の金利循環の動向等を分かりやすく説明し、現在の超低金利を活用する『一回のみの徳政令』という位置づけで、利払い費を固定化する必要性について真摯に国民に訴えるべきであろう。

 

財政法第五条において、「すべて、公債の発行については日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内ではこの限りでない」となっている。日本の財政赤字の解決には、この但し書きの部分を活用すべきだ。具体的には日銀が保有している長期国債(昨年9月末で404兆円、2年以上の普通国債残高の約50%)と今後、買い付ける分も含めて、償還時に全額、低利100年国債に切り替える事を国会で議決するべきであろう。多数の方が巨額な財政赤字を起因とする将来の大増税への不安を抱えており、それが個人消費の拡大や株式市場の上値を抑える最大の要因だと思われる。今こそ財政赤字問題を目に見える形で封じ込む『時節が到来』していると推察したい。

(北川 彰男)

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