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ドル円相場の見通し (2017年3月版)

仕事の関係から新聞社からコメントを求められる事がよくある。トランプ氏が米国の大統領選挙で勝利した昨年11月9日の際もコメントを求められ、11月10日付の中部経済新聞の紙面において「株式はきょうかなり織り込んだが、今後の発言次第でさらに厳しい局面を迎えるであろう。円高圧力が高まるのは必至だ。1ドル=90円台で収まるかどうか」と掲載されている。しかし、その後のドル円は真逆の結果になっている。

 

11月9日の日経平均株価(終値)は16,251円54銭(前日比919円84銭の下落)、ドル円(日銀発表の中心相場)は101円90銭(前日比2円55銭の円高ドル安)になり、当日の日本市場はトランプ氏の大統領選の当選確実に対して、極めて悲観的であった。ところが、翌日の日経平均は1,092円の上昇、ドル円は105円90銭になり、急速にドル高円安が進んでいる。この反発力の強さをみて、自分が大変な考え違いをしていた事に気が付く事になった。

 

11月25日に再度、中部経済新聞から取材を受けた際は一転して強気のコメントを述べており、11月26日付の紙面では、「トランプ氏の大規模なインフラ投資や大型減税は米国の企業収益を押し上げる。NYダウが上昇すれば日本株も上がる」と掲載されている。取材を受けた25日の日経平均は18,381円22銭(終値)であった。その後の日経平均は今年1月5日に19,615円40銭まで上昇しており、前回、見通しを間違えた事から、早期に相場観を転換した事が、功を奏したといえる。

 

今回のトランプ氏の大統領選勝利で多くの専門家が円高ドル安等の影響で株価は下落すると予想していたが、今年の1月にかけて相場は正反対の動きをしている。その真因は何であったのか。この案件は今後の相場を予想するうえでも重要であり、遅ればせながら私見を述べたい。「購買力平価」とは同じ製品の価格は一つとみる「一物一価の法則」が、成り立つ際の2国間の為替相場のレートだ。

例えばドル円相場を1ドル=120円と仮定して、その時点から米国の物価が50%上昇し、日本がデフレの定着で物価の上昇率がゼロ%の場合、米国は1ドルのものが1.5ドルに上昇しているのに、1ドル=120円のままなら日本の製品は1ドルで輸出できるので、圧倒的に貿易面で日本は有利になってしまう。これを是正するには、1ドル=80円になれば120円の手取り額を得るためには日本の製品も1.5ドルにしなければいけなくなるので、性能や販売力等は別の問題とすれば為替を調整する事で両国の製品は価格面では均一になり、極端な貿易の不均衡を解消する事が可能になる。

 

このような両国の物価の格差、貿易の不均衡の是正のために購買力平価の考え方は生まれた面もあると推察している。国際通貨研究所が発表しているドル円の購買力平価は2016年12月時点で、消費者物価ベース「126円59銭」、企業物価ベース「96円88銭」になっている。15年から16年にかけてドル円相場の主な高安(ザラバベース)は「15年6月8日・125円66銭、同年8月12日・125円28銭」、「16年6月24日・99円00銭、同年8月18日・99円65銭」になり、購買力平価の消費者物価と企業物価の範囲で推移している。

 

日本の上場企業は海外売上高や海外資産が増加している事もあり、株価指数はドル高円安になれば上昇し、円高ドル安になれば下落している。トランプ氏は大統領就任後も日本の貿易黒字等に対して厳しい批判をしているが、これは以前から容易に予想されていた事だ。昨年の11月9日にドル円は101円19銭まで円高になっており、このうえ通商面で攻められては一層の円高が進み、株価も暴落してしまう。これが、多くの専門家が陥ったリスクシナリオの思考であろう。

 

見通しを大きく間違えたのは、購買力平価は企業物価ベースが基準という固定観念にとらわれ過ぎた事であろう。ドル円は消費者物価・企業物価ベースの範囲で動いており、昨年11月にかけて相場は既にトランプ氏の勝利をかなり織り込んで円高になっていたと推察される。だから、同氏の勝利で材料出尽くしになり、その後の円安・株高に繫がったとみたい。

 

今後のドル円相場は日米金利差の拡大もあり、昨年のような大幅な円高はないと思われる。ドル円の20年移動平均(月末終値ベース)は108円28銭になり、同水準が円高の強い抵抗線と予想したい。米国は今年2~3回は利上げする見通しであり、年末から来年3月にかけてドル円は120円を超えると推察している。

 

(北川 彰男)

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