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政治を遠回りさせるポピュリズム (2016年7月版)

英国の欧州連合(EU)からの離脱を問う国民投票が6月23日に実施されている。従来、この問題は最終的には残留派が勝つと予想されており、株式市場では余り材料視していなかったといえる。しかし、6月になって離脱派の支持率が予想外に上昇し、英国のEU離脱が現実味を帯びた事から、世界経済の不透明感が一気に高まり、日本など世界の株価は大幅な下落を余儀なくされたと思われる。

 

5月31日に日経平均株価は17,251円36銭の高値を付けているが、6月16日には15,395円98銭まで急落している。その後は、英国のEU残留の予想が強まった事から、株価も急速に戻していたが、「投票結果は予想外に離脱派の勝利」になり、英国の通貨のポンドやユーロが急落するなど経済不安が深化し、24日の世界の株価は暴落の状態になっている。この1カ月間ほど、日本など世界の株式市場は英国の大衆迎合主義(ポピュリズム)を扇動した政治家に振り回されたといえる。グローバル化が進展した現在の世界経済はつながっており、英国のような国際金融に強みを持つGDP世界5位の経済大国でポピュリズムが流行すると今回のような世界的な市場の大混乱が起きるという事であろう。

 

英国は経常赤字国である。2013~15年の年平均の経常赤字は1,325億ドルになり、14年のGDPに対する経常赤字の比率は「5.1%」の水準だ。ちなみに経常赤字大国の米国の同比率は06年には「5.8%」まで悪化していたが、リーマンショック等もあり、14年には「2.2%」に回復している。経常赤字とは国全体の総需要が総供給を上回っている状況であり、それだけ国民全体で過剰消費になっているといえる。

 

英国民がGDPの4~5%も過剰消費の状態になっているにも関わらず同国の通貨のポンドはなぜ、急落しなかったのであろうか。英国はEUに加盟して欧州大陸に輸出しやすい経済環境にあり、ロンドンにシティーという金融街を有している。また、合計特殊出生率(2.08人で人口維持が可能)が07~12年で1.9人台、13年1.83人と高水準であり、さらに一定の移民を受け入れている事から、英国の人口は06年の6,060万人が、15年には6,470万人と増加しており、30年の予測では7,011万人になっている。

 

英国は米国と同様、着実に人口が増加する先進国として注目されていた事から、同国に対する投資が増加し、これが大幅な経常赤字国でも通貨の安定につながり、インフレなき経済成長の長期化が可能になったと思われる。英国の名目GDP(米ドルベース)は、1995年の1兆2,376億ドルから2014年には2兆9,889億ドルになり、年率成長率は4.75%の高水準の状況だ。ちなみに日本の名目GDP(同)は同期間に13.9%の減少になっている。英国の高成長が実現した背景にはEUに加盟しながら、ユーロには加盟しないという先人の知恵が大きく寄与していたと推察している。

 

EU離脱を誘導した英国の政治家は、EUに加盟している事による恩恵は全く無視して、EUから離脱しても現在、手にしている権益がそのまま継続できると吹聴し、移民が急増している弊害のみを除去できるかのような錯覚を大衆に浸透させたと思われる。許しがたい詭弁(きべん)であり、世界経済を混乱させた責任に対して、英国は長期に亘って重い代償を払う事になるであろう。今後、EU離脱にともなう経済混乱が予想される事から、当面、世界の大手企業は大変なリスクを有した同国への投資は凍結すべきであろう。また、ロンドンに拠点を持つ大手金融機関もドイツのフランクフルト等に主要機能を移転させる事を早急に検討する必要があると思われる。

英国の問題は一旦、悪材料出尽くしになったと予想しているが、今後の懸念材料は米国の大統領選挙になるとみたい。米国では英国以上に『悪質なポピュリズム』が流行しており、強い不安感もあるが、米国人の良識を信じたい。経済は時間が経過すれば落ち着くところに収まるものだが、都合の良い事ばかりを巧みな言葉でつなぎ合わせる聞き心地のいいポピュリズムによって、経済が混乱すれば株価も急落し、多くの人が迷惑をする事になる。日本企業の成長力は信頼しているが、経済は政治次第の面もある。政治を遠回りさせないためにもポピュリズムを封じ込む事は世界的な課題であろう。

 

 

(北川 彰男)

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