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上がる理が評価される時節 (2016年5月版)

今年の2月11日は株式市場にとって大きな節目になったといえる。同日、米国先物原油WTI(期近物、終値ベース)は1バレル(約159リットル)当たり26ドル21セントまで下落している。同価格は14年6月に107ドル26セントの高値を付けているが、①中国経済の減速、②シェールオイルの台頭、③サウジアラビアとイランの宗派対立、この『三つの要因』等で、元々、生産コストと比較して高過ぎた原油価格は急落を余儀なくされたと思われる。

 

中東産油国の原油の生産コスト(1バレル当たり)は10ドル~20ドルの予想だが、各国とも原油の高価格を前提に財政規模の設定をしており、財政収支が均衡する原油価格(同)は大半の国が70ドル以上と推計されている。これにより、財政赤字を補てんするため、中東等の産油国は3~3.5兆ドルの規模といわれるオイルマネー(運用資産)を取り崩しており、このような売りが出る事を見込んでヘッジファンド等の投機筋が追撃売りを仕掛けた事で、世界同時株安が発生したと思われる。

 

これは、当コーナーの今年2月号でご案内させていただいた事だが、米国の名目GDP(国内総生産)に対する株式時価総額(NY証券取引所・ナスダック市場合計、年末ベース)の比率は1996~2015年の平均で「126%」になっている。同比率は昨年5月末で151%になり、89年末の日本市場の147%を上回る水準であった。

 

米国経済は規模や成長率などから、先進国では抜きんでた存在だが、株価は実体経済に対して余りにも先行していた。しかし、株価が急落した今年2月11日終値時点の推計値で、米国市場の同比率は「124%」と過去20年間の平均値を下回る水準まで低下している。世界の株式市場の象徴でもある米国株の急落は世界の株式市場を激しく動揺させたが、米国株は一旦、調整をした事で、同国の株式は再び長期上昇波動に戻ると推察している。

 

また、原油価格も2月11日を底値に反発に転じている。特に4月17日に主要産油国による原油の増産凍結の協議が合意できなかったにも関わらず、4月末にかけてWTIが40ドル台で推移している状況を考えれば、原油価格の下値は底堅くなってきたと思われる。米国のシェールオイルは、世界有数の産油国である同国の原油生産量の約50%を占めているが、直近の優良なシェールオイルの生産コストは1バレル当たり約40ドルとされている。

 

原油の採掘や開発等の費用を勘案すればWTIの20ドル台は売られ過ぎの水準であったといえる。しかし、前述の「三つの要因」は構造的な問題であり、原油価格は今後、1年ほどは30~50ドル台、その後も60~70ドル台の水準が長く続くのではないか。サウジアラビア等で大きな政変が起きない限り、以前のような原油価格の急騰の可能性は低いと思われる。

 

WTIが長期間にわたり低価格で安定していた時期は1985年12月~2000年1月になり、湾岸戦争(91年1月)前の約6カ月間を除けば同期間のWTIは、「10ドル台~20ドル台」の水準であった。日本の名目GDP(国内総生産、内閣府・暦年ベース)は85年・328兆円から、97年・523兆円まで約195兆円拡大している。日本の労働力人口は98年がピークになり、人口増による押し上げ効果もあったが、GDPは国内の付加価値の合計であり、原油などの原材料費が低価格になる事で日本のGDPは大幅に増えたといえる。

 

その後、GDPは13年でも479兆円と長期間停滞しているが、人口減の問題以外に原材料費の大幅な上昇がGDPの強い押し下げ要因になったと思われる。今後、長期にわたり原材料費が安定すれば日本のGDPは毎年、着実に増加するであろう。名目GDPが伸びれば、GDPの伸び率の約1.1~1.5倍とされる税収弾性値の関係で、税収も長期的に増加する事が見込まれる。これにより、日本の最大の弱点である少子化、人口減の問題に一層、差別化した政策が可能になり、日本経済の成長率の押し上げに寄与するとみたい。

 

今年2月以降の日経平均株価は円高ドル安による円換算額の収縮という問題もあり、停滞が続いている。しかし、詳細は割愛するが、米ドル換算の日経平均は堅調に推移しており、余り悲観的に相場を見ない方が良いと思われる。原油の長期にわたる低位安定は将来的に日本経済の強い追い風になるであろう。直近の株式市場は急速な円高で不安定な状況にあるが、悪材料の織り込みが進んでおり、上がる理が評価される時節が到来しつつあると推察している。

 

 

(北川 彰男)

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