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物価と賃上げ (2023年4月版)

株式市場は上値追いから一転、米金融機関の破綻をきっかけに反落した。当面は、信用不安の金融市場への影響と、今後の金融当局の政策対応を見極める展開が考えられる。

 

30年近く値上げと無縁だった日本に、転機が訪れている。昨年、スーパーの食料品の半分以上が値上げされたほか、同一商品の再値上げなど、近年にない出来事が続いている。100円均一やファストファッション、お手軽なファーストフードも、今や値上げの対象となっている。世界的には、以前より緩やかなインフレは続いており、20年前と比較した米国の消費者物価指数は約50%上昇している。

 

総務省の消費者物価指数(総合)の2022年平均は、前年比2.5%の上昇であった。光熱・水道費だけを取り上げれば+14.8%、食費では+4.5%だが、値上げをそれ以上に実感するのは、賃金が上昇していない中での目減りを感じるからであろう。

 

賃金は毎月の物価変動に合わせることができないため、年度初めに実施される賃上げがその調整として重要となる。今年は多くの企業が、物価上昇分あるいはプラスアルファの賃上げの実施を表明しており、ムードは高まっている。労働組合の中央組織である連合は、従来よりも1%ずつ高いベア+3%程度、定期昇給分も含め+5%程度の賃上げを掲げている。政府も同様の意向を示しているが、賃上げが未達や微増にとどまれば、実質的給与はマイナスにとどまる。その場合、物価の上昇が同じ商品やサービスへの購買力を低下させるため、その後の家計の見直しを迫られることになり、景気の先行きへの影響が懸念されよう。

 

物価上昇の要因には、ウクライナ侵攻に伴う円安・原材料高が、企業の生産コスト上昇をカバーするため、製品やサービス価格の値上げに反映されたためである。この流れが一時的で、労働者の要望どおりの賃上げも実施されれば不問に付されるだろう。総じて物価と賃金の関係は複雑であり、相互に影響しあうため、経済全体のバランスを取る適切な調整が要求される。

 

ベンチマークとされるトヨタ自動車は、早期に満額回答しており、物価と賃金が相乗的に高まることに期待が高まっている。また、4月から新体制となる日銀の金融政策見通しも、今後の物価と賃金の動向を注視しており、好循環の運びとなれば2%の物価目標を安定的に達成できる環境が整うこととなるだろう。日銀は、目標の物価上昇率2%に対し、賃金上昇率は、3%程度を目安としているが、賃金上昇率が物価上昇率を上回ることが政策変更の条件と考えられる。実質賃金が持続的に増加し、物価と賃金が相乗的かつ持続的に高まることが経済の循環と成長を促すカギとなるだけに、企業規模や業種を問わず賃上げが広がるかが焦点となる。

 

一般的に実質賃金の上昇は、労働生産性に要因があるといわれている。労働生産性の向上とは、同一期間でより多くの財やサービスが生産することであり、企業の利益を増加させる。企業が利益を享受し、労働者もより多くの生産性を発揮することで、高い賃金が獲得できる。もともと賃上げについては、企業ごとの余力に差があり、先駆する大企業に比べて中小企業の賃上げ余力は小さい。政府の賃上げ要請が強まった2014 年以降では、中小企業は大企業の賃上げに追随できていない。大企業は、製造業と非製造業とも賃上げ率に遜色ないものの、中小企業では非製造業の賃上げ率は製造業を下回る。海外事業の割合が相対的に大きい大企業は、昨年、円安で収益が押し上げられた一方、中小企業は円安や資源高による輸入コストが上昇、価格に転嫁する動きが遅れ、収益は圧迫されている。中小企業は大企業以上に仕入価格が上昇する一方で、販売価格への転嫁ができていないことが十分に考えられる。また大企業では、近年、株主還元を重視していたため人件費も抑制気味であったが、中小企業は人件費の負担が元々下がりにくく、労働分配率いわゆる賃金引き上げ余地に差があると考えられる。この春を契機に大企業の賃金が上昇し、大企業以上に人手不足が深刻な中小企業の賃上げにも波及することが、経済の好循環につながるには不可欠と考えられる。

 

物価と賃金が、相乗的かつ持続的に高まることが経済の好循環と成長を促すカギであるだけに、この春の賃上げの動きが中小まで幅広く広がることに注目したい。

(戸谷 慈伸)

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