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骨太の方針のこれからに注目 (2022年7月版)

6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)は、27年ぶりとなる0.75%の大幅な利上げを決めた。政策金利は今秋にも3%を超える見通しで、米FRBは景気後退を懸念しつつも、インフレ抑制の姿勢を強く打ち出した。

 

6月7日岸田政権初の、骨太の方針(経済財政運営と改革基本方針)が閣議決定した。発足当初「新しい資本主義」として、成長と分配の好循環を掲げ、賃上げを促す「令和版所得倍増計画」であったが、今回は成長重視の姿勢へと修正された。

 

当初は、企業の利益追求と株主利益優先姿勢の是正を目指し、金融所得課税や四半期開示の見直しが検討され、株式市場にマイナスの印象を与える結果であった。5月上旬、外遊先の英国講演で、首相は突如「インベスト イン キシダ(=岸田に投資を)」と、資産所得倍増計画の方針を表明した。個人資産のリスクマネーへのシフトにより、経済を活性化させる政策で、NISA(少額投資非課税制度)の恒久化や、iDeCo(個人型確定拠出年金制度)拡充の検討が骨太の方針に盛り込むことが表明された。

 

このたびの骨太の方針は、成長戦略重視を明確にした。新しい資本主義への施策として、重点的投資が掲げられ、①人への投資、②科学技術・イノベーションへの投資、③スタートアップへの投資、④脱炭素(GX)・デジタルフォーメーション(DX)への投資、が中心政策として挙げられた。

 

人への投資には、NISAやiDeCoによる資産所得倍増プランをはじめ、成長分野への労働シフトを後押しする策として、非正規を含めた100万人の再就職や、能力向上のための高度なデジタル技能を備えた人材を育成する職業訓練、社会人が大学などで学び直す「リカレント教育」の拡充が検討されている。また、賃金格差是正には、301人以上を常時雇用する企業に対し、男女の賃金格差公表を義務化し、正規・最低賃金に対しても開示義務が求められる。そして、最低賃金は全国平均で時給1,000円以上への引き上げをめざす。これらは、人材の流動化政策として労働者がより成長分野へ移ることを助け、日本経済の労働生産性や、潜在成長率の向上に資する政策として期待される。

 

倍増を目指す資産所得とは、個人が保有する資産から得られる所得のことで、利子、配当、賃貸料収入などが該当する。資産所得の増加には、個人の金融資産や不動産という分母を増やすとともに、保有資産の構成をよりリターンを生むものへと変えていくことが必要である。しかし、現在の市場環境での資産所得倍増は容易でないことは心得ておきたい。(令和3年総務省家計調査では、世帯主50歳未満の世帯は負債が貯蓄を上回っており、60歳以上で2000万円超の貯蓄となっている。)

 

今回の方針修正に対して市場は、概ね歓迎ムードであるが、財政健全化について先送りの動きがあることには留意しておきたい。以前に言及された「2025年度プライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化目標」は、ウクライナや国内外の情勢を踏まえ、再検証される見通しとなっている。今回投資の柱として位置づけられたDXやGXへの財源には、GX経済移行債(仮称)が充てられる予定である。他にも防衛費増額など、財政拡張的な政策が強まる傾向にあることは注視が必要で、財源が国債発行のみで賄われるとすれば、成長戦略としての有効性を損なう可能性も否定できない。新規の国債発行は、いつの時代も将来世代からの前借りであり、将来の成長期待や潜在力を押し下げる可能性を持つことを忘れてはならない。周知のとおり、高齢少子化は2040年頃ピークを迎え、年金や医療などの社会保障にかかる費用は大きく膨らむ。他方、支え手である生産年齢人口は、現在より2割以上減ると推計されている。今後の高齢者に対する負担の在り方や、年金、医療、介護の給付を将来にわたり持続させるための論議も並行して行うことが重要である。

 

支持率を見る限り、岸田政権の聞く力や政策修正の柔軟性を、国民は容認しているように見える。参議院選挙と日米の株価の動向を注視しつつ、骨太の方針のこれからを見守る必要がある。

(戸谷 慈伸)

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