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東証市場区分再編 (2022年4月版)

今年に入り、米国インフレ懸念から下落した株式市場は、ロシアのウクライナ侵攻により、一段と先行き不明瞭な展開となっている。ロシアへの経済制裁や、相次ぐ企業の事業停止と通貨ルーブルの急落で、金融市場の波乱が続いている。

 

東京証券取引所(以下東証)は、4日より市場区分を「プライム」、「スタンダード」、「グロース」の3つの新区分に再編する。「プライム」には1部上場の約8割、1841社(経過措置296社を含む)が上場を予定しており、中心市場の再編は、2部を新設した1961年以来60年ぶりとなる。

 

2013年の大阪証券取引所との統合の際、市場区分を維持したため各市場の位置づけが重複し、東証1部のコンセプトが明確でないまま企業数(昨年末1部上場2,185社)が膨らんだことが今回の背景にある。東証1部は上場の約6割が集中し、上位50 銘柄で時価総額の約4割を占めていた。また、新規上場基準より廃止基準が低いことや、1部への移行上場基準が新規上場よりも緩和されていることが、持続的な企業価値向上を促す動機付けになっていなかったことにも起因していた。今回の再編では3市場に絞り込み、コンセプトが明確化された。プライムは、高い流動性とガバナンスを備え、海外投資家との建設的対話に基づき成長を目指す企業。スタンダードは、一定の流動性と基本的なガバナンスを備えた企業。グロースは、高い成長性を実現するための計画を持ち、市場からの評価を得られる企業と位置付けられた。

 

具体的な上場基準は、流通株式の時価総額を重視し、プライム100億円以上、スタンダード10億円以上、グロース5億円以上とし、上場株式に占める流通株比率をプライム35%以上、スタンダード、グロース25%以上を求める。その他にも株主数や、財務体質、収益についても基準が設けられている。

 

上場廃止の基準も見直され、新規上場と維持基準をそろえることで、上場後の経営努力を促している。2部とマザーズからの移行時に求められた時価総額40億円と、直接上場とジャスダックから移行の250億円の基準も今回、統一されることとなった。

 

プライムでの上場には、昨年改訂された企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)による高度な経営体制や、情報開示も求められている。また、社外取締役の比率も最低3分の1以上とされ、情報開示においては国際的機構の提言に基づいた内容が要求されることとなった。決算や適時開示の際には、英文の資料も要件となり、不可能な場合、理由の説明が必要とされている。

 

市場再編と併せて、株価指数も見直され、新区分の上場企業を対象にした3指数が新設される。東証1部全銘柄で構成されるTOPIX(東証株価指数)は、全体の値動きを示す指標だが、投資対象としての機能性や、個別銘柄の株価のゆがみなどの問題点も指摘されており、基準に満たない銘柄から10月末以降、段階的に除外されることとなる(25年1月末完了予定)。今後のTOPIXは各社の時価総額のうち、浮動株(100億円以上)のみを対象とし、4月以降浮動株から政策保有株が段階的に除外されることとなる。そのため、持ち合い株の多い企業は構成比率の減少で、株価への影響も懸念されている。

 

また名古屋証券取引所も、東証に基準を合わせつつ見直される。1部を「プレミア」、2部「メイン」、セントレックスは「ネクスト」と同日に名称を変える。

 

プライムへの上場というステータスは、取引や資金調達において有利に働くと考えられている。人材採用面でも、人材確保に効果を発揮すると推察され、就職活動における企業規模に関する調査では、業界トップと大手の合計で過半数を占め、若者の大手志向は根強い。特に、地方に拠点を置く上場会社は、地域の雇用や消費等を支える地方経済の要であることが多いため、区分見直しが地方の上場会社や、経済に及ぼす影響についても中長期的な視点で観察する必要がある。

 

今回の市場区分再編と上場基準の改革で、さまざまな投資家が魅力を感じ、支持する市場として注目されることを期待したい。

 

(戸谷 慈伸)

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