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続 デジタル通貨 (2020年3月版)

今年に入り、株式市場はブラックスワンの飛来に驚かされることが間々あるようだ。

 

確率論や従来からの知識や経験からでは予測しえない事象が、多大な影響を与えることを総称したものだが、突然のイラン司令官殺害や、終息の兆しが見えない新型コロナウィルスなど、不測の事態が起こっている。米アイオワ州よりはじまった民主党大統領候補予備選も、開票作業の不手際がトランプ大統領の支持率上昇に貢献、アメリカ株指数の高値更新につながるとは思いもしない出来事であった。その後の新型肺炎の拡大が、リスク回避に急展開し、株価の急落をもたらしたことも不測といえよう。ただマーケットに携わる者は、小さな動きにも常に注意を払うことが肝要であることを自戒したい。

 

前号で少し触れたデジタル通貨問題が俄かに動き始めた。1/21日銀、ECB(欧州中央銀行)、イングランド銀行、スウェーデン中銀のリクスバンク、スイス国民銀行、カナダ銀行の6中銀と国際決済銀行(BIS)の参加で、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の活用可能性の評価に関する知見共有を目的としたグループが設立された。内容は、CBDC活用のあり方、相互運用性を含む経済、機能、技術面での設計の選択肢の評価や、分散型台帳(ブロックチェーン)などの先端的技術についてなど、4月にも話し合いを持ち、6月中間報告の予定である。

 

元々のCBDCの発端は、ビットコインであったが、価値の裏付けがないため決済などの支払い手段として広がる見込みが薄く、トーンダウンしていった。しかし、昨年のフェイスブックの「リブラ」発行構想に対しては、そうは問屋が卸さないとばかりに米FRBはじめ、封じ込めに終始した。24億人超のSNS利用者が、既存通貨の価値に連動する形で既存の金融システムを通さずに決済を行えば看過できないのは当然である。万が一、ユーザー1人当たり1000ドルリブラに両替すれば、2兆4000億ドルのリブラ保有が成立することとなる。銀行取引ができない、口座を持たない新興国の低所得者などに、決済や送金手段を提供しうるとはいえ、中央銀行の収入(通貨発行益)の減少や業務への支障、金融政策効果の低下、システムの不安定化、マネーロンダリングへの利用、個人情報など様々な問題点がそこに浮かび上がる。

 

そしてグループ設立を決定的にしたのが、中国の動きである。中国は14年に研究に着手、昨年までで70項目以上の特許を取得し、基本設計や標準的なルール作りを終えている。今年中にも深圳市、蘇州市などで実証実験を検討しているようだ。当面は、人民銀行が金融機関と同額の準備金と引き換えにデジタル人民元を発行し、企業や個人の同額の現金や預金と交換する方針で、国内での決済・送金の際にデジタル人民元使用を許可する。中国政府は数年前より、アリババとテンセントに国有銀行との協業を指導、準備金積み立てなど既存金融機関同様のルール順守を求めており、民営銀行の認可とともに、実質的に金融機関的な位置付けとなっている。

 

元々、人民元は法定通貨として国際的資本移動を制限し、国有銀行に金融仲介を一任するもので、中国政府はマネーと経済活動を統制した運営を行っている。政府は他のデジタル通貨の流入を防ぎ、脱税、資本の海外逃避、シャドーバンキングなどの監視からの逃避行動を防ぐ役割も担うと考えているようだ。

 

フィンテックの浸透も、設立を後押しした一因とみられる。世界銀行の調べでは、19年の個人の国際送金総額は、約7066億ドル(約76兆円)と過去最高を更新の見込みである。また米調査会社の推計では、スマホ・ネット経由のデジタル送金は18年末時点で19年に全体の約37%、23年には約52%への上昇が予想されており、銀行窓口など店舗経由を逆転する見通しである。また、現金発行に伴うATM管理や現金輸送などのコストも遠因と考えうる。

 

現時点は米FRBの参加はなく、日銀もCBDCを発行する計画はない。与党内では米国との連携を提言する動きもあるようだが、方向性については未だ混沌としている。

 

主要国中最も現金発行残高が高いといわれる日本は、昨年10月よりキャッシュレス化を推進、スマーフォン決済の拡大を促している。世界的なドルや人民元の決済通貨問題と同時に、足元、国内のDX(デジタルトランスインフォーメーション)、経済効率の面からもデジタル通貨の行方を見守りたい。

 

(戸谷 慈伸)

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