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日本におけるキャッシュレス社会 (2019年6月版)

プラットフォーム(動かすための環境)の発展が遅れた社会ほど、イノベーションの波には適応しやすい。中国における携帯電話や、キャッシュレス化の普及は代表的な一例だ。

 

世界のキャッシュレス比率(2015年経済産業省調べ)は、中国60%、アメリカ45%に対して日本は約19%にとどまる。ただ08年以後普及スピードは上昇している。Amazon、楽天、メルカリなどオンラインショッピングの普及や、携帯電話使用料金の支払いへのクレジットの利用で、抵抗感が少なくなったことなどが背景には考えられる。コンビニやスーパーでの電子マネー利用者の増加も含め、今後もこの傾向は続くと思われるが、韓国は最も進んでおり、約9割に達する。

 

韓国は97年当時のアジア通貨危機後の経済低迷を脱するため、政府がクレジットカード利用額の20%を課税所得から控除する利用促進策や、カードを利用した控えに記載された番号を対象にした宝くじ制度などの施策を導入。結果、99年から02年(日韓W杯開催年)にかけてクレジットカード利用額は6.9倍に拡大した。中国は北京五輪の08年に政府主導で銀聯カードの普及促進を、英国はロンドン五輪の12年に非接触決済(デビッドカード)の普及と決裁インフラを担う専門組織の設置を行い普及の促進に努めた。同様に、20年東京五輪、25年大阪万博開催を前に決裁比率40%をめざし、経済産業省は18年4月に「キャッシュレス・ビジョン」を公表、7月に産学官共同「一般社団法人キャッシュレス推進協議会」を設立、今3月に「コード決済に関する統一技術仕様ガイドライン」を策定した。

 

普及の進まない理由には諸説あるが、一番には現金志向の強さといわれている。世界的にも銀行の店舗数、ATMの設置数も多く現金が簡単に手に入り、治安も良いので持ち歩きを厭わないうえ匿名性も重宝されている。現金流通残高はGDPの20%程度と高水準で、紙幣の印刷技術が高く、偽札が流通していない背景があると考えられる。クレジットカードの保有枚数は世界標準並みだが、利用度は前述のとおり。低利用の一つにクレジット加盟店の加盟店手数料が高いことも要因と思われ、同時に外国と比べ、クレジット、デビットカード、電子マネー、スマートフォン(=スマホ)決裁など決裁方法の乱立で主役が決まらないことも一因のようだ。

 

キャッシュレス決済の中でも特に注目されるのが「QRコード決済」である。中国では決済による手数料よりもビッグデータ収集を重視し、加盟店や利用者の手数料を引き下げているのが現状で、政府の推進と並行した購入しやすいスマートフォンの爆発的普及効果が大きい。おかげで日常生活のサービスが殆どスマホ経由となり、生活の利便性が向上、露店から高級品までモバイル決済(=QRコード決済)を行うようになった。元々、偽物、偽札、不正取引が横行していただけに現金に対する信用は低かったが、モバイル決済であれば不正を行うことが難しい。クレジットや非接触型カードなどの電子マネーでは端末の導入や審査により導入のハードルは高いが、実際、中国では審査も要らず、QRコード決済に導入に用意するものはスマホとQRコードを印刷した紙で事が足りる。読み取る側が銀行口座を登録されていればOKなのである。今や銀聯カード利用からQRコード決済に移行しておりキャッシュレス化も変化している。

 

ちなみに日本の一般的クレジットカードの決済手数料は3~8%で、小売業や宿泊飲食産業の売上高利益率は2%台と言われており、クレジットカード端末の導入・普及も公的支援が普及には必要となろう。

 

キャッシュレス推進協議会の7つのプロジェクトのはじめに「QRコード支払い普及への対応(標準化の取組)」があり、QRコード決済に注目をおくべきであろう。特に今後、外国人を何とか取り込みたい事業者側の切実な思いと人手不足解消、生産性向上の推進を目指したい中で第三世代キャッシュレスのQRコードやバーコードを用いたスマホによる決済が急速に進む可能性を秘めている。現金決済のインフラコストとして経済産業省の試算では年間1兆円がかかる点でもコストダウンに繋がると見られる。

 

シアトルで16年、アマゾン・ゴーと名づけられたレジのないコンビニが開業、専用のアプリをゲートにかざし、商品を取って店を出るだけだそうだ。セルフレジさえもない店舗が将来、拡大するのか今は不明だが、日本も停電、災害などの緊急時の対応を含めキャッシュレス決済の推進には注目すべきであろう。

 

(戸谷 慈伸)

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