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諸問題をなぎ倒していく大胆な発想・3 (2018年8月版)

日本銀行の統計資料によれば国内銀行の新規の貸出約定平均金利(月次、総合)は1993年10月では「4.043%」と高水準を維持していたが、同金利は95年5月「3%割れ」、96年9月「2%割れ」、01年9月「1.5%割れ」、12年2月には「1%割れ」とほぼ一貫して低下が進んでいる。要因としては、95年に生産年齢人口が8,726万人でピークを打った事やバブルの後遺症による金融危機等を克服するためにゼロ金利政策と呼ばれる金融政策を99年2月に導入した事などが挙げられている。

 

それでも15年12月時点では「0.927%」と一定の水準を維持していたが、16年1月29日の金融政策決定会合でマイナス金利の導入が発表(実施は2月16日)された事で、貸出金利は一段と大幅低下になっており、今年2月には「0.601%」(5月、0.611%)まで低下している。マイナス金利とは日銀補完当座預金制度適用先で各金融機関が日銀に預けている当座預金残高(18年6月分で372兆2,160億円)の一部分にマイナス金利を適用(7月31日の金融政策決定会合で現在の完全裁定取引後の平均10兆円程度から減少させ、8月積み期間で5兆円程度になる見込み)するものだが、予想以上に金利の低下に影響したといえる。

 

「金融」とは文字通り「お金を融通」する事であり、その主体となる金融機関が、企業や自営業者、個人にお金を融通して信用創造を推進する事で経済は相乗効果を創出し、経済成長を押し上げる事が可能になる。現状の余りにも低水準の貸出金利の状況は金融機関の体力を低下させ、お金を融通する力を減退させるとして、各金融機関や多数の金融関係の専門家がマイナス金利政策を厳しく批判している。それらの論考は金融政策論の教科書通りの理路整然とした論法で、いずれも正しくもっともな事であろう。

 

ただ、その正しい論理がなぜ、いつまでも実現せず、マイナス金利政策まで導入されているのであろうか。この謎を解くキーワードは日本の累積財政赤字だと思われる。金利とは何であろうか。筆者はお金の価値だと解釈している。モノをつくる供給力が強くなかった時代では、過剰な金融緩和はインフレを誘発していたが、現在は生産性の継続的な向上に加えて、グローバル時代で新興国の安価な賃金を活用した製品の流入やネット取引の普及で「価格の見える化」が浸透しており、中央銀行の超金融緩和政策は容易にモノのインフレには結びつかない構造にある。それでは日銀の金融緩和は何をもたらしたのであろうか。それは「お金の量が増加する事で、その価値を引き下げる」事につながり、それが日本の継続的な金利低下の真因であったと考察している。

 

財務省の資料によれば日本の公債残高(年度末ベース)と利払い費は1990年度の「166兆円、10兆8千億円」が、17年度では「864兆円、8兆1千億円」になっている。借金が5倍以上に膨張しているにも関わらず、利払い費が25%も減少しているのは、日銀の超低金利政策の長期化によって実現したものといえる。仮に金利が90年度と同水準の状態であった場合、借金が5・2倍になっているので、利払い費は56兆円の異常な数値になる。18年度の一般会計予算の租税及び印紙収入見込みは59兆円しかないため、税収は利払い費のみでほぼ消える計算だ。

 

これが日本の財政の現実であり、マイナス金利の解除等で国債の大幅な金利上昇を容認した場合、早速、利払い費の増加につながる事になる。また、短期・中期的な懸念材料は日銀の金融政策の転換に対して、投機筋が円高を仕掛けてくる可能性が高い事だ。米国のトランプ政権は貿易収支削減を強く推進しており、円が米ドルに対して強くなる事を反対する理由はないと思われる。現在は米国の政策金利が上昇過程にあるため、円高は限定的になるが、いずれ米国の景気後退を織り込んで政策金利上昇の打ち止めが意識されるようになれば円高は急速に進むと予想している。

 

現在の各企業は高水準の海外売上高と海外資産を有しているため、円高になれば連結決算時に円換算した際、売上高や資産が減価する事から、円高は減益要因になる企業が多く、それは株価の下落にもつながり、個人消費を冷やす事になる。さらに長期・超長期では、金利の上昇は国債の利払い費の増加に直結し、全国民ベースで甚大な負担が発生する事を強く危惧している。マイナス金利政策は縮小の方向にあるが、現状の金融政策が長期化すれば金融機関の収益を一段と圧迫し、信用創造に支障をきたす事が懸念される。この袋小路のような困難な問題をどのように解決すれば良いのであろうか。

 

当コーナーの今年1・3・4月号等で何度もご紹介している事だが、岩下有司中京大学名誉教授が98年に最初に提唱された「日銀引き受けの低利(0.1%)百年国債」を活用するべきだと思われる。日銀保有の長期国債残高は18年3月末で426兆5,674億円になり、日本の2年物以上・普通国債残高の51.6%を占めている。この日銀保有分を前述の低利百年国債を発行し、日銀引き受けで全額切り替えて金利を0.1%に固定化する事が肝要だ。それと並行して日銀当座預金はマイナス金利を解除し、全額0.1%の金利を適用して百年間固定化する政策を実施するべきだと思われる。最も国民負担の小さい政策は何であるのか。『累積財政赤字等の諸問題をなぎ倒していく大胆な発想』が求められていると推察したい。

 

(北川 彰男)

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