証券展望コラム

ホーム証券展望コラム過去コラム一覧 > 2018年7月版

諸問題をなぎ倒していく大胆な発想・2 (2018年7月版)

先月号の当コーナーでトランプ米国大統領の品位に欠ける恫喝外交に対して、厳しい見方を述べているが、本稿執筆時(6月26日)ではその度合いが一層、酷くなっている状況だ。詳細は割愛するが、日欧米の議会制民主主義国家と異なり、共産党一党支配の中国がGDPの規模で将来的に世界1位になる状況をこのまま看過する事は避ける必要がある。そのためにも先月号でご紹介した「環太平洋・インド洋・大西洋経済連携協定」、新たな経済ブロックの構築が肝要であり、トランプ氏のルールを無視した費用対効果の乏しい「保護主義政策」は全く的外れといえる。

 

株式市場はトランプ氏の異様な保護主義政策の影響もあり上値の重い展開になっているが、「異常はいずれ正常に戻る」であろう。議会制民主主義の良い面は、たとえ時の権力を担う政治家が大きな間違いをしても「選挙で修正が可能」な事である。米国人が現在の異常な通商政策の間違いに早く気付いて、米国政治を正常化させるためにも、11月の同国の中間選挙で『勇気ある決断』が行われる事を切望したい。米国の保護主義政策は修正を余儀なくされると予想しており、この問題はいずれ良い方向で決着すると推察している。

 

国内に視点を向ければ日本銀行の金融政策に対して、様々な議論が交錯している。現在の日銀の金融政策は10年物国債の流通利回りを「0%程度に誘導」し、長期国債を「年間80兆円をメドに増加させる」政策やETF(上場投資信託)を「年間約6兆円に相当するペースで増加させる」等の政策を実施しており、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年上昇率が「安定的に2%を超えるまで」現在の金融政策を継続する事を約束している。ただ、日銀が保有する長期国債残高は17年10月末の411兆5,442億円から、18年4月末の433兆7,574億円まで6カ月の年換算ベースの増加額は「44兆円余り」に留まっており、実質的には国債の購入額を減らす金融緩和の縮小は着実に進展している。

 

現状を受けて、多くの専門家は物価目標の引き下げや国債等の購入額の削減を決定する金融政策を実施すべきだと提唱しているが、余りにも視野の狭い金融政策論といえる。トランプ政権が貿易赤字を削減しようと躍起になっている時に彼らの政策論を間違えて導入した場合、投機筋は日銀が金融緩和縮小を本格的に推進するとみて、凄まじい円高ドル安の投機を仕掛けてくるであろう。国債購入は実質ベースで削減しながら、「物価目標2%と国債購入枠80兆円の旗印」は、「投機筋を牽制する脅し」として堅持すべきである。

 

それでは今後、どうすれば良いのであろうか。今の経済・金融政策に対する考え方を『半永久的に継続する事』だ。なぜ、2%の物価上昇率を「目的」にしているのか。それは税収を増やすためには一定の物価上昇率を実現して、名目のGDPを増やす事が必須条件になるからである。今年3月末で日本の2年物以上の普通国債残高は826兆3,828億円も累積しており、10~15年後に新興国の賃金が上昇してきた場合、いずれコスト高による物価上昇の波が日本に押し寄せてくる事が予想され、利払い費が急増する事になる。

 

その時、日本は増税と景気低迷の悪循環に苦しむと推察している。だからこそ、一定の物価上昇率を実現し、名目GDPを増やして税収を拡大する経済政策を最優先事項にする必要があり、金融政策はその目的を実現するために対応する事が肝要だ。最も国民負担の小さい金融緩和の縮小策は、日銀が国債やETFを買わなくても良い状況をつくる事であり、自然消滅させる事を考えるべきである。

 

18年度の税収見込み額は59兆790億円になっているが、19年度以降、毎年3%の税収増(名目GDP成長率2.5%、税収弾性値1.2)を実現し、消費税率2%引き上げの税収増5兆円、その他収入5兆円と想定した場合、35年度の税収見込みは「107兆6,486億円」になる。18年度の一般会計見込み額は97兆7,128億円になるが、社会保障費の増加を毎年5千億円と仮定した場合、35年度の歳出額は「106兆2,128億円」になり、日本の財政は黒字化が可能になる。

 

日銀は買いたくても新発国債の発行自体が「ゼロ」になるので、国債を買う必要性がなくなるのである。高齢化による社会保障費の増加はやむを得ない事だが、以前のように税収増に合わせてそれ以外の歳出を増やす事だけは最もやってはいけない事であろう。ただ、大地震など激甚災害の際は、当コーナーで何度もご案内している日銀による直接引き受けの低利(年0.1%)100年国債の発行を国会で議決すれば良いと思われる。

 

日銀は日本の主要平均株価に連動するETFを大量購入している。米国のS&P500の1968~08年の年末最終週の実績ベースの平均PERは17.6倍になっている。TOPIXの実績ベースのEPSは71年末から07年末まで年率4.93%の伸び率だ。6月25日時点の日経平均株価は22,338円になっており、予想PERは13.2倍、予想EPSは1,687円になっている。過去のデータを参考に今後のEPSの伸び率を「5%」、PERを「17倍」で設定した場合、25年度の日経平均の目標値は4万358円、45年度では10万7,082円になる。日銀はETFを優良資産としてなるべく長く保有すると良いのではないか。日本経済の長期的な発展には「諸問題をなぎ倒していく大胆な発想」が不可欠であろう。

 

(北川 彰男)

PAGE TOP

  • 日本証券協会特設サイトNISA(ニーサ)
  • 証券取引等監視委員会 情報提供窓口
  • 注意喚起
木村証券株式会社

※「顔の見える証券会社」は木村証券株式会社により商標登録(【商標登録番号】 第4638528号 )されています。
金融商品取引業者 登録番号:東海財務局長(金商)第6号 加入協会:日本証券業協会