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諸問題をなぎ倒していく大胆な発想・4 (2018年9月版)

日本の株式市場はやや上向き基調だが、ボックス相場が続いている。直近の企業業績は堅調だが、米国のトランプ政権による保護主義政策で中国等との通商摩擦が激化し、世界経済の減速から企業業績に下方圧力が発生する事を相場が警戒しているからだと思われる。通商摩擦の行方は混とんとしており、容易に予測できる事ではない。恐らくトランプ米国大統領や中国の習近平国家主席も含めて、誰も分からない事であろう。ただ、それがもたらす弊害に関しては、ある程度は予測できる事だ。今月号の当コーナーでは、トランプ政権が引き起こしている保護主義政策による「結果」と今後のあるべき方向性について考察したい。

 

米国の2017年の貿易額(財貨のみ)は輸出・1兆5,507億ドルに対して、輸入は2兆3,619億ドルになり、貿易赤字額は「8,812億ドル」になっている。単純に考えればこの貿易赤字額の分だけ海外で製造して、米国へ輸出するのではなく、米国内で製造させればそれだけ米国労働者の雇用を増やす事になり、賃金上昇にもつながる事になる。また、この「貿易戦争によって関税の引き上げ競争になっても、貿易赤字の分だけ米国には余力があるため、一時的に貿易戦争の犠牲はでても相手国の方が困るので、最終的には勝てるから心配ない」として、戦争気分の高揚感を煽り立て、「最後は勝つという甘い誘惑」が同氏の支持者に対してある程度浸透しており、それがトランプ氏の支持率を一定の水準に維持させている最大の要因だと思われる。

 

しかし、複雑な国際政治のしがらみに加えて、これに市場原理がからみ、それよりも厄介な人間の感情もからんでくるため、とても前述のような単純な論理は成り立たないであろう。米国の保護貿易政策に対抗して中国は米産大豆等に高関税をかけているが、米シカゴ先物(期近物、1ブッシェル)の大豆価格の推移は今年3月に10.7ドル台、6月の10.2ドル台から、7月には8.1ドル台まで急落しており、8月28日終値でも8.2ドル台と低水準に留まっている。中国人民元相場も3月の1ドル=6.24元台、6月の6.38元台から、8月15日に6.93元台まで急落、28日では6.80元台の状況だ。トランプ政権が中国の対米輸出製品に対して高関税をかけても、それに相応して商品市況や人民元の対ドル相場も下落するため、その効果を一定程度、相殺する市場原理が今後も作用すると推察される。

 

また、それ以上に米国経済にマイナスになる事は、今後は世界中で米国製品を見るとトランプ氏の顔を思い出す方が急増していく事だと思われる。世界一の超大国の大統領でありながら、その立場を利用して相手を恫喝し、自分の主張を通そうとする同氏の政治スタイルは人間として余りにも卑怯であり、この弱いものいじめのやり方に対して、多数の人の心に激しい嫌悪感が芽生えていると思われる。経済の真理ともいえる「比較優位の原則」を無視した保護主義政策は非効率な悪影響しかもたらさないが、一つだけ明白に言える事があるのではないか。それは、米国製品を嫌う消費者が、世界中で野火のように広がっていく事だと推察している。

 

人間の心の奥底に植え付けられた嫌悪感は容易に消えるものではない。トランプ政権が現在の政策を推進すればするほど世界中の多数の人の心に不快な感情が刻み込まれていくであろう。トランプ氏を支持している方々は、品性に欠けるいじめっ子の片棒を担いでいるに過ぎない事を一日でも早く気づいて欲しいと願っている。現実問題としては米国産の消費財の売上高が世界的に停滞し、いずれ米国企業の業績への悪影響が顕在化すると思われる。そのような事態になる前に現在の異常な政治を正常化させる事が肝要だ。

 

トランプ氏は共和党の支持者の80%以上から支持を得ていると言われている。共和党の本来の方針は、低所得者層にも気を配りつつ、自由主義経済による効率的な市場を推進する事が基本政策であったはずだ。なぜ、トランプ氏が支持されているかといえば自由主義経済を推進しても大多数の共和党の支持者の生活が、余り良くならなかったというジレンマもあったと思われる。極端な経済格差が発生し、大衆が余り潤わないのは資本主義経済の構造的欠陥だが、その矛盾を指摘する事は社会主義思想につながり、政治信条に反すると思っているのであろうか。しかし、「社会主義というのは本来、生産手段の国有化が基本理念」であり、富の不均衡を是正する政策等は修正資本主義の枠内の事だと思われる。誇り高い自立心は米国人のアイデンティティーなのであろうが、富の格差を是正する政策は決して国からの施しではなく、一般大衆の当然の権利という解釈をすべきであろう。

 

関税を引き上げるぞと他国を恫喝して、自国に投資をさせて生産力を拡充し、雇用増に結びつける政策は失うものも大きく、決して費用対効果が高いものではない事は明白だ。格差を是正していく事は、レーガン政権前に施行されていた高水準の累進課税制度など税制改革で所得の再配分機能を拡充していく事が有効だといえる。また、中国の知的財産権の侵害や国有企業への補助金、過剰生産問題への対応策は、当コーナーの今年6月号(環太平洋・インド洋・大西洋経済連携協定)で述べたように日米を中心とした強力な経済ブロックを構築していく方が、より費用対効果が高いと思われる。いずれにしても米国政治の正常化は世界の多数派の願望であろう。その実現を担う米国民の勇気ある決断に期待したい。

 

(北川 彰男)

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