個人金融資産と投資の比率 (2015年11月版)
PERとは、その企業の「株価」が「1株当たり純利益」の何倍に買われているのかを示す株価指標のひとつである。基本的にはPERの数値が高ければ企業収益に対して株価は割高になり、低ければ割安になるとされている。東証株価指数(TOPIX)は東京証券取引所第1部上場企業を対象とする株価指数であり、S&P500は米国市場に上場されている代表的な500銘柄の企業を対象とする株価指数だ。この両指数に採用されている企業の平均PER(実績ベース)は、1989年末の時点でTOPIXが「70.6倍」、S&P500は「14.7倍」であった。
なぜ、そのようになってしまったのかは割愛するが、日本の株式市場は1980年代の後半にかけて、このPERという株価指標を全く無視した株価形成になっていたといえる。1989年末時点でTOPIXは「2881.37」、S&P500は「353.40」であったが、その後、この日米を代表するふたつの株価指数は凄まじいかい離が発生している。
TOPIXは何度も上下を繰り返しながら、大底をつけたのは12年6月4日の「695.51」であった。日本の代表的な株価指数であるTOPIXは、89年末から22年間以上も下げ続け、大底では高値から4分の1以下まで売られている。これに対して、米国のS&P500もTOPIXのように上下動を繰り返しているが、長期波動では上昇を続けており、今年5月21日には「2130.82」(終値)と史上最高値を更新している。89年末の「353.40」から、25年間ほどで6倍以上になっており、前述のTOPIXとは全く正反対の動きになっている。
株価は何を基準に動いているのか。それは異常値と正常値を繰り返しながら、長期的には株価と利益の関係を示すPERで動いていると推察している。この日米の20数年間に及ぶ株価のかい離の根底には、PER70倍台という企業利益に対して余りにも買われ過ぎていたTOPIXの株価水準を是正するために必要な時間と株価調整であったと思われる。
その後、日米のPERには驚くべき激変がおきている。TOPIXが718.32、日経平均株価が8534円12銭まで下落し、日本の株式市場が不振にあえいでいた12年10月12日終値時点、日米の主要平均株価に採用されている企業の指数別予想PER(平均)はTOPIXが「12.1倍」、日経平均株価は「11.6倍」であり、S&P500は「13.7倍」、NYダウ工業株30種は「12.54」であった。
日米のPERは同時点で日本が米国を下回る水準になっており、日本の株式市場はきっかけ次第で急騰する状況にあったといえる。その後、経済政策や金融政策が大転換した事で今日にいたる株価の継続的な上昇につながったと思われる。ちなみに日米の予想PERは直近でも日本がやや下回る状況だ。日本の株式市場も米国市場のように利益の増減で株価も上下する株式市場が確立されており、短期的には不安定な波動を反復しつつ、長期波動では上昇が継続すると推察している。
1976年に弊社に入社した際、新入社員研修で弊社の前副社長(当時は営業部長)であった故久野喬氏より、日米の個人金融資産に占める「株式・出資金」等の比率について教えていただいた事を記憶している。米国の同比率は日本を大きく上回っており、やがて日本も米国のように投資が主体の時代になるという夢のある話であった。あれから長い年月を経て、今年6月末の日米の個人金融資産に占める「株式・出資金」と「投資信託」の合計の比率は米国が「47.5%」、日本は「16.3%」という状況であり、残念ながら日米の格差は全く解消されなかったといえる。
なぜ、同比率が上昇しなかったかといえば株価指数が22年以上も下げ続け、一時は高値から4分の1以下に下落するようでは一般の方々から、株式投資が敬遠されても致し方がないと自戒するのみである。しかし、『既に日米のPERは平準化しており、今後は企業利益の伸びに応じて株価も長期にわたって上昇する米国のような株式市場に日本もなるであろう。それによって信頼が高まり、個人金融資産に占める投資の比率も米国のように高くなるであろう。自分が教えていただいてから40年近く実現していないが、それだけ今後の伸びしろ、夢がある』、機会があるたびにこのような話をする事を心掛けている。
(北川 彰男)