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好循環を創出し、中央突破 (2015年7月版)

 株価の堅調が続いているが、今後も株価の上昇基調は継続すると予想している。その理由としては、日本経済の弱点は「財政赤字」と「少子化」になるが、問題点が明確に理解され、機も熟してきた事で解決のための道筋が見えてきており、現在の株価上昇はそれを反映した動きだと解釈しているからだ。

 当コーナーの今年3月号(株価の持続的上昇の条件)でも触れているが、日米製造業の米ドル換算の時間当たり賃金格差(総務省統計局の資料より試算)は94年末で40%、99年末で25%も日本が米国を上回っている。日本の物価が上昇しなかった主因は賃金が上がらなかったからだとする論考もあるが、これは高すぎた米ドル換算の賃金を押し下げる圧力が日本経済にかかっていたため、円ベースの賃金上昇を抑制せざるを得なかった事が、長期間にわたる物価停滞の真因だったと推察している。

 しかし、高すぎた米ドル建て賃金は既に過去の問題になっている。独立行政法人日本貿易振興機構のデータによればワーカー(一般の工員、職員)の都市別月額賃金はニューヨークで「2996ドル」(調査時期、14年12月~15年1月)になっている。東京は26万4111円(同、14年1月)になっているが、15年1月5日の120円29銭(日本銀行発表の中心相場)でドル換算した場合、東京のワーカーの月額賃金は「2196ドル」になり、ニューヨークを約27%も下回る水準だ。今後はROE重視の経営など他の条件を同一にしていけば米国の賃金が上昇した分だけ日本の賃金も上昇させる事が可能になったといえる。

 ドル建て賃金はドル円相場の動向に大きく左右される事になる。同相場の2大変動要因は日米の貿易収支と金利差になるが、為替変動には両国の物価水準を調整する機能もあると思われる。94年末から12年末の日米の消費者物価指数(除く食品・エネルギー)は米国が46.3%(年平均、2.1%)上昇、日本は5.3%(同、0.3%)下落になり、同期間で51.6%の物価のかい離になっている。

 ドル円相場は07年6月の124円14銭から11年10月の75円52銭まで39%も円高ドル安が進んでいるが、根底には両国の物価のかい離を為替で平準化する経済的な機能が作用したと思われる。円高が進めばドル建て賃金は上昇し、国内賃金を抑制して物価の下落をもたらす圧力が発生する。また、日本企業のライバルメーカーには中国や韓国の企業が多数存在する事から、円高は安価な輸入品を大幅に増加させ、さらに物価を下落させる状況になる。

 物価が下落する経済が長期化すれば名目GDPが伸びなくなり、税収弾性値の関係から税収も増加しなくなる事から、「財政赤字」は一層、深刻化し、予算の投入も絞られる事で「少子化対策」も進まずに潜在成長率は長期的に低下する事になる。また、12年の後半にかけて、悪い経済循環をさらに助長するように「成長しない事を前提とする経済政策を考えるべき」などの経済論まで現れる状況だったのである。

 このような事態を打開するために13年4月に日本銀行は「量的・質的金融緩和」を導入し、『消費者物価の前年比上昇率2%』を目指すという政策を打ち出したと推察している。総務省のデータによれば食料(酒類を除く)及びエネルギーを除いた総合消費者物価指数は10年のマイナス1.2%(暦年、前年比)、12年のマイナス0.6%(同)から、15年5月ではプラス0.4%(前年同月比)と徐々に成果が現れている状況だ。

 当初の「2年程度の期間」という目標や金融緩和の量に対して、成果が小さいとする批判もあるが、長く下に落ち込んでいたものをプラスに引き上げるだけでも大変な労力が必要だったと解釈している。米国の消費者物価指数(食料・エネルギーを除く)の上昇率は15年5月で「1.7%」(前年同月比)になっているが、今後の金融政策は同指数を念頭において勘案していく事が肝要であろう。物価に生産性向上を加味した賃金の上昇、名目値の上昇から同GDPや税収の拡大、財政再建の推進、少子化対策の拡充などは可能だと推察している。ドル建て賃金が米国を大幅に下回るなど機が熟しており、潜在成長率を引き上げていく好循環を創出し、中央突破を図る事が、国民負担を最小化する政策であろう。

(北川 彰男)

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