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シニア国家にふさわしい成長戦略 (2015年5月版)

 今年4月に日経平均株価は約15年ぶりとなる2万円台をつけている。来年3月までの15年度を見通した場合、株価の2大変動要因である企業業績と需給(株式の需要と供給の関係)の両面で、日本の株式市場に打撃をもたらすようなマイナス要因は小規模なものにとどまると推察している。足元の株式市場が順調な事から気の早い向きは2020年の東京五輪にかけて日経平均の目標値は4万円などという強気論もでているが、このような相場観には強い疑問を持っている。

 1954年以降、日経平均株価は7年間余りで5倍台の上昇率を3回実現しており、最も近い例では82年10月から89年12月までの期間に5.7倍の上昇率を達成している。しかし、当時と現在で決定的に相違する要素は人口問題であろう。生産年齢人口(各年10月1日現在、以下同じ)比率とは15歳から64歳までの人口の総数が全体に占める比率だ。

 同比率は90年で69.7%になり、92年の69.8%でピークを打っている。また、生産年齢人口の総数は95年の8726万人、労働力人口(15歳以上の人口の内、就業者と完全失業者の合計)も98年の6793万人がピークになっている。これらの人口関連の数値と歩調を合わせるように日本の名目GDP(国内総生産、暦年)は97年の523兆円が過去最高の水準になっている状況だ。

 これに対して2014年の生産年齢人口比率は61.3%まで低下し、総数は7785万人とピークから941万人、10.8%も減少している。同年の労働力人口は6587万人とピーク比で206万人の減少にとどまっているが、高齢者層や女性労働力の活用に注力している事が功を奏していると思われる。名目GDPは14年では488兆円、ピークから6.7%の減少になっている。

 以上の数値から、生産年齢人口などの減少は名目GDPの成長率に大きなマイナスの影響を及ぼしている事が推察される。80年代までと現在では経済の若さ、勢いが大きく異なる状況であり、これで過去のように短期間で株価が大幅に上昇するという予測をする事は余りにも極端な相場観であろう。

 しかし、一部のエコノミストが提唱しているように成長しない事を前提とした経済政策を考えるべきという経済論も大変な問題点を抱えている。これは人口減少などによる経済停滞をそのまま受け入れて、「文化国家」を目指せば良いという国家観にもつながると思われる。この考え方は一見美しく住みやすい社会が到来するような錯覚をもたらすが、GDPに対する債務残高(借金)が230%(純債務でも150%弱)もあり、主要先進国で最悪水準の財政状態にある日本には最もふさわしくない経済政策だと思われる。

 現状は日本銀行が大量の国債を買い付けているため、金利は異常な低水準にあるが、経済原理からいずれ金利が上昇する事は必然であり、その際、借金の重みによる利払い費がずっしりと国民の肩にのしかかってくると推察される。前述のような成長しない事を前提とした経済政策を選択した場合、日本は「重税に苦しむ極東の老大国」の道を歩むと思われる。その場合、より生活に苦しむのは抵抗力に乏しい中低所得者層になるのであろう。

 だからこそ、先月号の当コーナーで述べたように「成長戦略&ROE経営」を国民全体のコンセンサスとして、現状の経済政策を半永久的に継続していく事が問題解決の必須事項になると思われる。企業や国全体の稼ぐ力を効率的に強くしていけば長期的に法人税や所得税などの累積金額を巨額なものに拡大していく事が可能になる。時間をかけて財政赤字問題を解決に導く事が、最も国民負担が小さくなる手法だと推察している。

 GDPを拡大するためにはIT(情報技術)やロボットの多方面での活用など労働生産性の向上を推進する事が肝要だ。また、訪日外国人や技能実習生を増加させ日本のファンを大幅に増やして「移民」ではなく、彼らに「定住」してもらい日本人になってもらうようにすれば国民の理解も得やすいのではないか。80年代末までのような若さがみなぎる成長経済を求める事は無理でも、『シニア国家にふさわしい成長戦略』を構築していく事は可能だと思われる。それを実現すれば日本の株式市場も長期上昇波動の気流に乗る事が出来ると推察している。

(北川 彰男)

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