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ステーブルコイン (2025年9月版)

日経平均株価は、史上最高値を更新した。関税交渉決着による不透明感の払拭で、良好な需給状態の下、来期以降の増益への期待感から上値を狙う動きが続いている。最近は市場の変動幅も大きいだけに、天気同様に急激な変化への対処も常に心掛けておきたい。

 

7月19日米トランプ大統領は、初の暗号資産(仮想通貨) ステーブルコインの規制整備に関する法案に署名した。法案は、同コインの発行や利用に関する新しいガイドラインを定めたもので、GENIUS(ジーニアス)法案と呼ばれる。

 

ステーブルコインとは、価格が米ドルなどの法定通貨や国債、コモディティの価格と連動するように設計された仮想通貨の一つで、法定通貨との決済に対応していなかった仮想通貨を連動させることで決済手段として利用しやすくしたものである。この法定通貨型は、かつて金を担保に貨幣価値を保証した金本位制の仕組みに近く、米ドルなど等価の現物資産を裏付けとして発行され、一定の割合となるようペッグされる仕組みとなる。

 

ステーブルコインの長所は、日常的な支払いを通じて法定通貨と同じ感覚のまま各ブロックチェーン上で使用できることや、低コストかつ迅速に国際送金や支払いに利用できる点とされる。また短所は、未整備な法制度をはじめ、中央銀行のデジタル法定通貨(CBDC)と違い、民間企業による発行のため信用リスクが高く、準備資産の開示が不十分な場合が考えられる。そのほか、バグやハッキングなどのシステムリスクも指摘されている。日本でもすでに、23年「ステーブルコイン規制法」が施行されており、今秋にもフィンテック企業による国内初の発行が認められる模様だ。

 

今回の法案には、連邦および州当局が認可した発行者に対し、銀行口座や米国債などの流動性の高い資産をコイン発行量に相当する準備資産として保有することと、詳細についても毎月開示することが義務付けられている。100億ドル以上の発行体は、公的機関による規制監督の対象となり、それ以下の発行体は、州当局の規制下での運営が認められ、500億ドルを超える場合は、年一回の監査を受けた財務報告書の提出義務がある。また、発行者はマネーロンダリング防止法に従う必要も義務付けられている。

 

米政府がこの法整備に乗り出した背景には、トランプ政権の後ろ盾が大きいが、決済手段としての利用拡大と発行に前向きな銀行や小売業の間で、規制を通じた健全な発展を促すのが狙いとされる。小売大手ウォルマートやアマゾン・ドット・コムなどは、いち早く買い物などに使えるステーブルコイン導入を検討しており、旅行会社エクスペディア・グループや航空会社も発行に前向きといわれる。一方で銀行も、企業間やキャッシュレス決済の中核インフラとしての地位を守るため共同での発行を検討しており、コスト削減とともにステーブルコインを用いた内外の送金や決済の迅速化を進める方向で動いている。銀行にとってステーブルコインの利用が進んだ場合、クレジットカードをはじめ手数料収入の減少の影響を懸念するためとも考えられる。

 

米金融大手では、将来の市場規模を現在の2,400億ドルから30年までに3.7兆ドルに達すると予測する。発行が拡大すれば、それに応じて米国債の需要が高まり、長期金利上昇リスクの低下や経済の安定にも寄与すると考えられており、海外での発行は、準備資産として米国への流入を後押しし、ドルの安定や基軸通貨としての地位の維持に貢献することを想定している。トランプ大統領は、ステーブルコインをインターネット誕生以来の金融技術における最大の革命となるかもしれないとして、国際金融と暗号資産技術における米国支配を固める大きな一歩だと自賛している。

 

2019年当時、メタ(旧フェイスブック)によるステーブルコイン「リブラ」は、国際的なマネーロンダリングや、資金の流れと金融システム不安定化を理由に中止に追い込まれた。その結果、主要国の中央銀行間でCBDC発行に向けた議論が進んでいるが、今回米国はCBDCに否定的で、その代替としてステーブルコインの発行拡大を目論む。トランプ政権は、ドルに連動したステーブルコインの国際決済での利用まで見据え、ドルの通貨覇権を維持する手段とする考えと推測される。

 

現時点でのステーブルコインの特徴である匿名性は、マネーロンダリングやテロなどの犯罪行為への利用と併存する面があり、国際決済までの利用拡大については見極めにくい。今後の流れを、注意深く見守りたい。

 

(戸谷 慈伸)

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