増加する小規模企業の退出 (2025年5月版)
トランプ米大統領による朝令暮改の発言に、世界中が振り回されている。乱高下が続く中、関税問題が一段落するまで、投資には慎重な対応が必要だろう。
2024年度全国企業倒産集計が、帝国データバンクから発表された。それによると、倒産件数は1 万70 件と3 年連続で前年度を上回り、11 年ぶりに1 万件を超えた。3 月の件数も、単月ベースで35 カ月連続、前年を上回り、戦後最長を更新している。小規模企業を中心に、原材料高をはじめ人手不足や賃上げなど、コスト増を価格転嫁できない企業の退出が緩やかに増加している。
2000 年度以降、負債5,000 万円未満の中小零細規模の倒産は増加傾向にある。総額では微減となったものの、建設業、製造業、小売業、運輸・通信業、サービス業、不動産業の6 業種の件数は、この10 年で最多となった。特に原材料価格の高騰が収益圧迫の要因となり、製造業では繊維関係が、小売業では、飲食店が2000 年度以降で最多となっている。
規模別には、前述のとおり5,000 万円未満の倒産が多く、資本金で見ても個人+1,000 万円未満の中小零細規模の倒産が全体の7割を占め、逆に100 億円以上は2000 年度以降では最少となった。うち創業から30 年以上の企業が全体の3割を占め、100 年以上の倒産も大幅に増加した。
とりわけ出版業界は、前年度に比べ8割の増加となった。この20 年の間に周辺環境は、ペーパーレス化やデジタル化が進行し、スマートフォンの浸透とともに電子書籍が普及した。SNS や動画配信サービスにより多くの情報が発信されるようになり、紙媒体の需要は大幅に落ち込んでいる。少子高齢化による読者の減少や、オンライン広告普及による広告減少と並行して、紙やインク価格の高騰で製造コストも上昇しており、事業環境のさらなる悪化が懸念される。今後も厳しい環境が続くとみられるだけに、デジタル化への対応や生産性、流通形態再編など、抜本的な対策が急務となっている。
帝国データバンクによると、全業種平均で価格転嫁率は約4割と推定されており、政府や大企業の取り組みから価格転嫁に対する理解は広まりつつあるものの、全く価格転嫁できていない企業も多いのが現状である。そのほかにも影響を与えるリスクとして、米政権の関税による先行きの不確実性や米経済の減速、国内の物価と賃金の好循環の持続、利上げによる借入金利上昇などの影響が想定される。これら影響も含め、今後も中小零細企業に対するリスクの高止まりと倒産の緩やかな増加は続くとみられる。
また、小規模企業を中心とした人手不足による倒産も2 年連続で増加、過去最多を更新している。自主的な判断で事業継続を断念する休廃業や、解散するケースも増加傾向を辿っており、東京商工リサーチによれば、昨年の自主的な休廃業や解散も初の6万件を突破、過去最多を更新している。そのうち60代以上の代表者企業が9割以上を占めており、高齢化や後継者不足で事業継続が困難となる状況で、政策支援終了や物価高による収益圧迫をきっかけとして、事業継続を断念するケースが増えているとみられる。
今後もこの人手不足型経済の傾向が強まる日本では、景気サイクルと関係なく休廃業や解散が増加する可能性には注意を払いたい。企業の退出は、経済の新陳代謝を促す点では生産性向上につながるとの有識者の見方がある。しかし、現実には退出企業から早期に生産性の高い企業や業種に移管・吸収されるとは考えにくく、失業の長期化や不本意な就業による生産性低下のリスクも潜む。仮に企業退出の増加が労働生産性を高め、賃金上昇に結び付くとしても、一部の大企業が中心となり、労働者全員が等しい恩恵を受けるとは限らないだろう。
日本の少子高齢化は今後も進み、人手不足型経済の構図はますます強まる傾向にある。生産年齢人口(15~64歳)の比率は趨勢的にも低下傾向にあり、2030年代に入ると一段と強まることが予想されている。倒産に休廃業や解散を合算した過去最多の企業の退出数は、現実にその傾向を表しているといえよう。こうした人手不足型経済の様相が強まる構図は、景気サイクルとは別に、現状が続く限り変わらぬまま退出が増加していくとみられる。
2030年代を迎えるこの5年間に、様々な要因から今以上に事業継続のリスクは高まるとみられる。日本企業が、グローバル経済や人手不足をはじめとした事業環境の変化に適応しながら改革できるのか、ここから正念場を迎える。
(戸谷 慈伸)