ペロブスカイト太陽電池 (2025年11月版)
日本の憲政史上、初の女性首相が選出された。積極財政の政策スタンスを背景に、始動前から平均株価は急伸し史上最高値を更新、5万円の大台を超えた。ここからは、上値追いか若しくは反転かの方向性を決める上で、経済政策の実行力を見極める段階となる。
高市首相の自民党総裁選の公約に、ペロブスカイト太陽電池(以下、ペロブスカイト)の普及が掲げられていたことをご記憶の方もいらっしゃるだろう。10月に閉幕した大阪万博で、ペロブスカイトを用いたバスターミナルやスタッフのユニフォームに使用され、次世代技術の実用化に期待が寄せられており、株式市場でも注目されている。
かつて日本の太陽電池産業は、世界を牽引する存在だったが、今や海外勢の台頭で直近シェアは微々たるものとなった。昨年の太陽光パネル国内出荷製品の約95%が海外であり、うち8割超が中国製とみられている。国内では製品輸入の拡大により、平地面積当たりの導入量が主要国で最大級となる一方、適地問題や景観を損なうといった地域との共生上の課題が生じている。また、中国が圧倒的なシェアを有する点は、米中対立を背景にした安全保障上のリスクとして浮上しており、経済安全保障相の任期中から安全保障と国際競争力を取り戻すため、エネルギー自給と競争力強化の切り札として、ぺロブスカイトへの代替を提唱したものと推察される。総裁選時には、公約として耐用年数を終える初期型太陽光パネルの廃棄問題も踏まえ、国内企業のペロブスカイト開発と普及を急がせるとともに、海外展開により富を呼び込むケースにしたいと発言している。
ペロブスカイトは2009年に開発された日本発の次世代技術で、普及するシリコン型と比べて軽量で薄く、曲げることができる特徴をもつ。これまで設置が困難だった場所への活用も可能で、従来型では難しいとされる曇りや雨の日に加え、室内照明でも発電効率が大きく損なわれないなどのメリットもある。主な原料となるヨウ素は、日本が世界シェアの約30%を占めており、当初の発電効率は低かったが、12年日英共同で固体型が開発されたことで注目を集め、昨年、英国の科学誌に掲載された論文では、発電効率が29.7%に到達したと発表されるなど、効率が従来のシリコン型に匹敵するレベルまで向上した。これらをきっかけにして、中国や欧州における開発が活発化して世界的競争が激しくなっている。
用途別にはフィルム型、ガラス型、タンデム型の3タイプがあり、フィルム型は軽量かつ柔軟性を持ち、導入案件のポテンシャルも大きいと考えられている。日本はこの分野で耐久性や大型化において世界をリードする技術力を持っており、発電コストや耐久性向上などの課題クリアに向けて開発を急ぐ。ガラス型は建物建材として、高層ビルや住宅用窓ガラスの代替設置が期待されており、フィルム型に比べ高耐水で耐久性に優れる。タンデム型は前の二者に比べ開発では遅れつつも、既存のシリコン太陽電池の上に重ねる方式のため、変換効率向上やシリコン太陽電池の耐用期限の理由から注目されており、研究開発が活発化している。
政府は24年11月に「次世代型太陽電池戦略」を策定し、ペロブスカイトを官民一体となり普及させていく方針を示した。今年2月の閣議決定では、政府部門における温室効果ガスの排出削減目標達成のため、政府所有の建築物等への率先導入や、社会実装の導入目標が位置付けられている。太陽光発電については、30年度までに設置可能な政府保有建築物の約50%以上、40年度までに100%の太陽光発電設備の設置を目指し、とりわけペロブスカイトの率先した導入を明記しており、自治体や民間企業の社会実装モデルに対する支援も検討されている。東京都は今秋から設置費用の全額補助制度を開始する予定で、経済産業省も来年度より化石燃料の利用が多い工場等を対象に、1万2,000事業者に太陽光パネル導入目標の策定を義務付け、太陽光パネルの導入を後押しする見通しである。政府としても当初から海外展開を視野に入れており、日本との国際標準策定での連携が見込める研究機関を有する国との展開を検討している。
脱炭素の京都議定書から早や20年が経過し、月内にはCOP30(国連気候変動枠組条約締約国会議)が開催される。長年の日本の課題であるエネルギー政策の行方を見極める意味でも、ペロブスカイトの今後に注目したい。
(戸谷 慈伸)
























