証券展望コラム

ホーム > 証券展望コラム

年収の壁 (2025年4月版)

関税をはじめとしたトランプ大統領の発言に、米国景気や世界の金融市場が翻弄されている。国内では商品券問題や追加利上げなど、マーケットに対する不確定要因に警戒が続き、当面は、上値追いではなく急落時の押し目狙いが有効と思われる。

 

昨年暮れに話題となった「年収103万円の壁」を見直す税制関連法案が、先月4日衆議院を通過した。今回の改正で、基礎控除(48万円)と給与所得控除(55万円)がそれぞれ10万円引き上げられ計123万円となり、年収200万円未満対象の恒久的な控除と、年収200万円から850万円まで段階的な基礎控除上乗せで落着となった。年収200万円以上への上乗せ分については、物価上昇に賃金上昇が追い付いていないことを理由に今年から2年間の暫定措置となった。今回は、国民民主党の課税最低限178万円の引き上げ案ではなく、日本維新の会の賛成で可決となったが、この論議は今後も参院選に向けて続くとみられる。

 

具体的には、年収200万円未満の人に対する恒久的非課税枠が160万円まで引き上げられ、200万円から850万円の範囲については、所得に応じた3段階(30万円〜5万円)の基礎控除を上乗せする仕組みとなる。今回の控除は、累進方式の所得税では、一律に基礎控除を引き上げた場合、高所得者の減税額が多くなり税収への影響も大きいため、高年収の基礎控除の引き上げ幅を抑え、年収による減税額の差を抑える形が採用されることとなった。同時に、特定扶養控除の見直しも行われ、アルバイトで働く子供の年収要件は103万円から150万円に引き上げられた。

 

長きにわたるデフレにより膠着していた課税最低ラインが、30年ぶりに引き上げられ、今後は物価上昇に合わせて控除額を見直す方向性が示されたことは、物価高に直面する国民にとってはありがたい。減税規模はおよそ、約1兆2,000億円程度が見込まれており、一人当たりでは2~3万円とみられる。

 

しかし、今回の法案には課題も残った。非課税控除を4段階に設定したことで、複雑になったと指摘する声が巷では聞かれている。年収水準とは関係なく減税額を2〜3万円程度の均一水準としたため、今回のような線引きが必要となり、複雑化が避けられなくなっている。また、今回の改正で年収200万円未満の所得税の課税最低限は、103万円から160万円に引き上げられたものの、住民税の基礎控除はそのままで住民税の課税最低限は110万円への引き上げに留まっている。パートタイムのような課税のない範囲での就労を希望する人にとっては、今後も110万円が意識されることも考えられる。今回の改正には働く人の意欲を失わせないという視点や、わかりやすさが不足したように映る。

 

当初の与党案では、「今後の対応として、物価上昇等を踏まえて基礎控除等の額を適時に引き上げることとし、所得税の抜本的な改革において具体案を検討する」とされている。しかし今回の改正には、所得制限の実施や2年間の期間限定など、物価上昇への対応が十分とはいえない部分も多い。厚生労働省の1月の毎月勤労統計調査(速報)では、現金給与総額(名目賃金)から物価上昇分を差し引いた実質賃金は、前年同月比1.8%減の3ヵ月ぶりのマイナスとなり、名目賃金では連続プラスだったものの、消費者物価指数(総合)が4.7%増と大幅に上昇し、実質、マイナスとなった。ボーナスなど特別給与も3.7%減少となり、米や野菜価格の高騰や燃料補助金の縮小により、家計が圧迫される状況は続いているとみられる。新年度に入り3年連続の賃上げとなれば、消費者であるサラリーマンも賃上げの持続に自信を持ち、消費の上向きも期待できるが、今回の減税額規模では不十分と考える声もある。年収200万円未満を除けば、2年間の暫定の問題や恒久的な財源確保の道筋についての議論が深まることなく終了したことは残念と言えよう。

 

国民の公的負担は、国税の所得税は財務省、地方税の住民税は総務省、社会保険料は厚生労働省というようにそれぞれの省庁で所管されている。先の国会では所得税の課税最低限引き上げを中心に議論されたわけだが、国や地方によって税収の現状は様々なだけに、抜本的な改革、いわゆる各省庁との一体的な議論が必要と考えられる。

 

将来的に実質賃金プラスが定着するためには年収の壁の問題は大きなテーマであり、税負担の軽減や財源のあり方についての議論は今後も続けていく必要がある。国民の生活に寄り添う政治が求められるだろう。

 

(戸谷 慈伸)

証券展望コラム一覧を見る

PAGE TOP

  • 日本証券協会特設サイトNISA(ニーサ)
  • 証券取引等監視委員会 情報提供窓口
  • 注意喚起
木村証券株式会社

※「顔の見える証券会社」は木村証券株式会社により商標登録(【商標登録番号】 第4638528号 )されています。
金融商品取引業者 登録番号:東海財務局長(金商)第6号 加入協会:日本証券業協会