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投資を成功させるための基本 (2017年5月版)

PER(株価収益率)とは基本的な株価の投資尺度であり、株価を1株当たり純利益で割ったシンプルなものだ。日米の主要平均株価指数に採用されている企業の平均PER(株価は年末ベース、利益は実績ベースにて計算)は以下のようになっている。日本は「東証株価指数・TOPIX」(東京証券取引所第一部に上場されている全銘柄)、米国は「S&P500」(米国市場に上場されている代表的な500銘柄)を対象にしている。

 

1971年(TOPIX14.9倍、S&P500 18.7倍) 以下は同様の形式にて表示)、76年(46.3倍、11.0倍)80年(20.4倍、9.2倍)、85年(35.2倍、13.5倍)、89年(70.6倍、14.5倍)、92年(36.7倍、24.3倍)、98年(103.1倍、32.3倍)、03年(96.7倍、28.3倍)、07年(19.5倍、18.7倍)。成長企業のPERは高くなり、成熟企業は低くなる傾向にあるが、一般的にはPERの数値が髙ければ株価は割高、低ければ割安とされている。

 

前述の数値を見ていただければ明白なように71年頃の日米のPERはTOPIXがS&P500より、やや割高という程度であったが、その後は日米のPERのかい離は大きくなり、89年末ではTOPIXは70倍台、S&P500は14倍台という極端な格差が発生している。89年にかけての日本経済は絶好調で、東京は世界一の金融都市になり、日本のGDPはいずれ米国を抜くとの華々しい予想もあり、PERの日米の大幅なかい離など全く無視されていたといえる。

 

89年12月のTOPIXの高値は2,884.80、日経平均株価は38,915円87銭になっている。その後の安値はTOPIXが12年6月の695.51、日経平均は09年3月の7,054円98銭になっており、PERを無視した株価形成をした反動は極めて大きかったといえる。それでは、PERという期待値のみを膨らませて株価は上昇していたのかといえばそれは間違いである。85年から89年にかけての株価の急騰は地価の上昇による実質純資産価額の拡大という実利の部分もあったからだ。

 

内閣府の国民経済計算によれば日本の土地価額は85年末で1,060兆円であった。それが、ピークの90年末では2,452兆円と約2.3倍になっている。日経平均は85年末の13,113円から、ピークとなる89年末の38,915円まで約3倍になっており、地価の上昇に突き上げられるように株価の膨張が実現したといえる。当時、日本は世界一の経済大国になるなどという理屈がつけられていたが、これがPERを無視した株価形成を可能にした真因であろう。

 

しかし、89年頃に日本の実質ベースの土地価額を総計すると米国が5~6つも買えるなどと勇ましい発言が飛び交っていたが、国境の垣根が低くなるグローバル化を先読みした日本の株式市場は90年以降、長期にわたる下落相場に陥っている。グローバル化で日本の土地だけが異常に高い状況が許されなくなり、地価が暴落し、企業の実質純資産価額が急減する事で、地価の上昇という支えを失った日本の株式市場はPERという別の投資尺度で米国の水準まで低下する事を余儀なくされたと思われる。しかし、07年末に日米のPERはほぼ同水準になっており、PERの日米の平準化は同時点で既に終了したといえる。

 

日本の株式市場に対して強気でみているのは、長年観察してきたPERが米国より低いからである。本稿執筆時(4月25日)のS&P500の採用企業の予想平均PERは18倍台、東証1部上場企業の同PERは16倍台と米国を下回る状況になっている。また、懸案だった土地価額も13年末の1,135兆円が底値になり、15年末では1,145兆円とやや反発に転じている。もちろん人口減の問題もあり、現状を放置していれば再び地価は下落し、株価の押し下げ要因になるであろう。

 

しかし、観光客や留学生、技能実習生等は着実に増加しており、外国人の日本定住を促進する仕組みづくりを充実させていけば土地に対する実需につながり、地価を安定させる事は可能だと思われる。あとは先月号の当コーナーで記述したように国債の日銀引き受けを戦略的に活用し、利払い費の固定化を図れば財政赤字問題の思わぬ暴走も封じ込む事は出来るであろう。89年頃のメタボリック症候群の状態の株式市場と比較をすれば現状は筋肉質で健康体の市場になっており、目先の材料に一喜一憂する事なく、ゆったりした気持ちで株式を長期保有する事が投資を成功させるための基本だと推察している。

 

(北川 彰男)

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