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財政赤字の真の解決方法 (2017年4月版)

今年2月号の当コーナーの主題は、「日経平均株価7万円を目指して」であった。達成時期が26年後という筆者独自の超長期の予測によるものだが、これをより高い確率で実現するためにも、日本の財政赤字問題の克服は必須事項になると思われる。2016年12月末時点の普通国債残高は826兆円の巨額な数値になっており、日本の財政赤字問題の解決策に対して、様々な議論が展開されている。

 

以前、話題になったのがヘリコプターマネー政策だ。これは国が元利払いの義務を負わない無利子永久国債を発行し、それを日本銀行が全額引き受けるというものだ。また、「教育、科学技術、子供」と使い道を限定した国債の発行も議論の対象になっている。最近、注目されているのが、ノーベル経済学賞を受賞した米プリンストン大学のクリストファー・シムズ教授が唱える「物価水準の財政理論」、いわゆるシムズ理論だ。

 

同氏は「財政支出で低インフレから脱出する事を提唱しており、政府のトップがインフレを起こす準備ができている。それを債務返済に使うといえば人々のインフレ期待を高める事が可能になる。2%の物価目標に到達するまで、増税は凍結すべき」などとコメントしている。シムズ理論など国債残高の増加を加速させる一連の議論には、将来的に金利が上昇してきた時の利払い費拡大の問題を考慮していない事に恐さを感じるのである。また、ヘリコプターマネーのように無利子というのは際限のない財政赤字の拡大に陥る危険があり、決して採用すべきではないと思われる。

 

普通国債残高と利払い費は1984年度の122兆円・8兆7千億円から、15年度では805兆円・8兆3千億円になっている。国債残高が6.6倍になっているのに利払い費は減少しており、これが財政赤字の拡大にも関わらず、容易に財政危機に陥らない要因の一つとみたい。しかし、そのような都合の良い状態が永続するわけがないのである。グローバル化とは国境の垣根が低くなっていく事だ。東アジアの新興国の賃金や物価は今後とも上昇するであろう。そして、いずれ日本にも物価や金利の上昇の波が押し寄せる事が予想される。それには長い時間を要するため、大多数の人が財政赤字など恐くないとさらに楽観的になって油断するまで、真の財政危機は起きないと推察している。

 

1989年の大納会から90年の大発会まで、41年間の証券人生の中で最もハッピーな気持ちで正月休みを過ごした事はなかったと思われる。しかし、90年1月以降、長期間に及ぶ凄まじい下落相場が待ち受けていた。今、振り返ってみるとバブルというものは皆がおかしいと思っていても、その異常な事がいつまでも続く事から、それを維持するため、さらに異常な理論が現れるものだと思われる。詳細は割愛するが、土地や株式の含み益を1株当たり純資産に加えたQレシオなどもその典型であろう。現状のシムズ理論にもその気配を感じており、強い警戒感を持っている。

 

それでは、どのような解決方法があるのであろうか。低利(年利0.1%)で償還期間100年の国債を発行し、それを日本銀行が引き受ける事を最初に提唱したのは岩下有司中京大学名誉教授(当時・同大学教授)であり、1998年9月1日付の読売新聞の〈論点〉において紹介されている。岩下先生が提唱されてから、既に長い年月が過ぎている。

 

財政法第五条において、『すべて、公債の発行については日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内ではこの限りでない』となっている。日本の財政赤字問題を解決するためには、この但し書きの部分を活用すべきだ。具体的には日銀が現在保有している国債と今後、買い付ける分も含めて、全額、低利100年国債に切り替える事を国会で議決するべきだと思われる。

 

これは、歴史的に2度とないと推察される現在の超低金利を活用して、日銀の保有分(国債発行額全体の40%強)だけでも利払い費を固定化してしまう合理的な財政赤字の解決方法だと思われる。これと並行して、金融緩和政策の継続・市中消化分の超長期国債発行の大幅増加・長期金利を上回る名目GDP成長率の達成・歳出削減策の実施・一定の増税、これらを組み合わせて、単年度の財政収支の黒字化の道筋を国民に提示すべきであろう。財政赤字問題は固定理論にとらわれず、意志さえあれば解決は可能だと推察している。

 

(北川 彰男)

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