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諸問題をなぎ倒していく大胆な発想 (2018年5月版)

日本銀行の金融緩和政策を縮小する「出口論」が、多くの専門家の間で勢いを増している。しかし、それが国民生活にもたらす影響の大きさには余り触れられていないのが実情だ。現在の金融政策の根源には財政赤字問題が密接に関連していると思われる。日本が抱えている累積財政赤字の恐さは二つある。一つはその残高の多さだ。財務省が発表している政府債務残高の対名目GDP比率(2017年、表示未満切り捨て)は日本240%、イタリア133%、米国108%、フランス96%、英国・カナダ89%、ドイツ65%と群を抜いた水準になっている。巨額の借金は将来、金利が上昇した際、重い利払い費となって国民世活を圧迫する事は不可避であろう。

 

もう一つの恐さは、日本がとても強い経済力をもっているため、この問題の本当の恐さが容易に露呈しない事だ。これはまずいと気がついた時は、取り返しのつかない厳しい状況に陥ると危惧している。その時点で、あの時こうしていればとほとんどの国民が後悔すると推察したい。17年12月末現在で普通国債残高は851兆3,398億円(財務省の資料より)になっているが、日本の財政赤字問題を放置していた場合、長期的に最も危惧され、可能性の高いシナリオは何であろうか。

 

現状は巨額の累積財政赤字に対して、規模の小さな財政再建策の話ばかりしており、問題解決にはほど遠い状況が延々と続いている。そうしている間に過去40数年間のように政府債務は今後も静かに積み上げが進行していくとみている。それでも当面は財政赤字問題で日本経済が揺らぐ可能性は極めて低いと思われる。賃金の低い膨大な新興国の労働力の存在があり、物価の伸び率の停滞や低水準の金利が長期化する可能性が高いからだ。

 

しかし、これは10年以上も先の事になると推察しているが、新興国の賃金や物価の上昇が進行し、超高齢化進展による貯蓄不足等で、いずれ日本にも物価・金利の上昇の波が押し寄せるであろう。その時点の財政赤字の残高が極めて重要になってくると思われる。早く借金の残高の増加を止めないと金利の上昇時に利払い費が急増し、借金の重みが一気に顕在化すると思われる。そうなれば世界の大手格付け機関は日本国債の格下げを進めるであろう。ヘッジファンド等の投機筋は間髪入れずに日本の国債の売り崩しを進めるとみたい。

 

国債の急落は金融機関の経営に大打撃をもたらし、過去の例からも金融危機は日本経済全体の危機につながる事は必定といえる。当然、株価は大暴落となり、株式運用を大幅に増やした日本の公的年金や日本株を大量に保有する日本銀行は多額の運用損が発生し、年金の円滑な支給に悪影響をもたらし通貨の信認も傷つける事になる。このような状態で日銀が国債を買い支える等の政策を実施しても格付け機関が日本の国債を大幅に引き下げ、円安や金利の上昇で物価の上昇・利払い費の急増を余儀なくされるであろう。それに対応して増税に追い込まれた場合、一層の景気の停滞と税収減の悪循環に陥る事になる。現状放置は極めて危険な道である。

 

それでは、多くの専門家と言われる方々が述べているように早く日本銀行も元に戻る金融政策の出口論を実施して金融を正常化し、金利を引き上げて将来に備える金融政策が正しい選択といえるのであろうか。また、いずれ将来まとめて大増税になるのだから、少しずつ増税していく政策が国民から支持されるのであろうか。大多数の国民は生活が厳しくなる事には選挙等で激しい拒否反応を示すであろう。

 

今の日本経済、特に国家財政は金利が低いから、均衡を保っている状況といえる。安倍晋三政権発足以降の『大幅な金融緩和と一定の財政出動』の成果による名目GDPや税収の増加、若者に希望を与える良好な就職環境の実現等は現在の金融政策が全ての前提になっていると思われる。出口論を展開する「国民生活不在の専門家諸氏」の言うとおりにしたら、数年で安倍政権以前の『凄まじい円高、デフレ経済の継続、名目GDPの伸び悩みと税収の停滞、株価の低迷、財政赤字拡大等による生活不安』の厳しい経済状況に逆戻りであろう。

 

安倍内閣が様々な問題があっても一定の支持率を維持できたのは経済が良く、就職環境が良好だったからだ。現状は解散論も飛び交い混迷を深めているが、今後の政治の舵取りは現在の好環境をもたらした『金融政策・財政政策は不変』のものとして、第三の矢となる成長戦略の「働き方改革、地方創生、女性活躍社会、少子化対策、原発ゼロ等の環境政策」等で競い合うべきだ。経済の暗転は支持率の急落につながり、政権は短期で終了する歴史を思い起こす必要があると思われる。

 

18年度見込みの租税及び印紙収入(財務省の資料より)は約59.1兆円、公債金発行額は約33.7兆円(同)になっている。現状の潤沢な金融緩和策を継続する事を条件にして、名目GDPの伸び率2.5%、税収弾性値1.2、税収の伸び率3%と仮定した場合、38年度の税収は106.77兆円、18年度見込み比で47.6兆円の増収になる。何事もネガティブに考えるのではなく、巨額の財政赤字や現状の金融政策の副作用等の『諸問題をなぎ倒していく大胆な発想』こそが、日本経済の長期的な発展の条件になると考察したい。

 

(北川 彰男)

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