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株式の大衆化への道 (2019年2月版)

松下幸之助氏は1967年11月号のPHP誌において、『株式の大衆化で新たな繁栄を』と題した提言を発表されている。資本主義には個々人の自由な発想が経済を活性化させ、経済を効率的に発展させる良い面もあるが、大きな貧富の格差を生んでしまう宿命ともいえる欠陥がある事は明白だ。松下氏はこのような資本主義の欠点を是正し、より多くの大衆が経済発展の恩恵を受けられるために株式の大衆化の必要性を提言されたと解釈している。

 

資本主義に代わる経済論としては社会主義があるが、これは旧ソビエト連邦の崩壊で既に破綻した経済論であろう。マルクスが説いた社会主義思想を形成する最大の骨格は資本家が独占している資本を生産手段の国有化を通じて労働者に還元するものだ。格差是正等の社会福祉政策を充実させる事は社会主義の根本理論とは別の思想といえる。トランプ米大統領を支援している多くの支持者など世界中には、いまだに社会主義思想を誤解している方々が無数にいる事が、社会の混乱に拍車を掛けていると思われる。

 

生産手段を国有化して独占資本を大衆に還元する事は一見、合理的な理論にみえるが、市場経済から国有企業を運営する計画経済への転換は強大な国家権力の出現とそれを動かす社会主義官僚を生み出す事から、個々人の自由は大幅に束縛される事になる。社会主義と民主主義は両立しない事は明白である。民主主義も資本主義も良い面ばかりではないが、社会主義や計画経済に比べれば『よりましな制度』であろう。

 

そのためにも現在の資本主義の根幹は決して変更すべきではない。しかし、資本主義は極端な富の格差が発生し、社会の階級化を定着させる可能性もある構造的な欠陥を有している。特に現在は「グローバル化」の浸透で儲けられる金額がより巨額になっており、「高技術化」の進展で、ごく少数の者による一人勝ちの社会が進み、一段と凄まじい格差社会に突き進む可能性が高い。「英国によるEUからの離脱騒動」や「米国発のトランプ狂騒曲」等は、社会の歪みに対する大衆の悲鳴ともいえる現象であろう。

 

それで、現れたのが関税マンと自称するトランプ氏のような「保護貿易主義」であり、「移民の排斥」等の「自分さえ良ければ病」である。格差の是正等の福祉政策を社会主義思想だと思い込んでいるトランプ氏の多くの支持者を典型とする社会主義に対する誤った認識、社会の矛盾を解決するための知識の欠如から、格差是正には「他国に対して関税を引き上げるぞと脅して利益を得るという異様な政治思想」への支持につながったのであろう。米国は、間違った政策からは一日も早く脱却すべきである。

 

資本主義の格差是正には「所得税や相続税への累進課税を強化」し、その財源を「若者への教育予算や恵まれない子供達への福祉予算に振り向け」、機会の平等に注力する事が王道であろう。また、金融経済教育を充実させ、証券投資に対する理解度を若い時から高める事が肝要だ。格差是正の有力な手段として、株式の大衆化、大衆資本主義の推進を挙げたい。松下幸之助氏が株式の大衆化を提唱されたのは50年以上も前になるが、その論考を実践する機が熟したと考察している。

 

1971年末時点のPER(株価を1株純利益で割った投資指標、実績ベース)は東証1部上場企業平均の「14.9倍」に対して、米国を代表する株価指数のS&P500平均は「18.7倍」であった。PERは原則的には低い方が割安とされている。71年末では日本の株式は割安であり、株式の大衆化を推進する上で良好な状態であったといえる。ただ、現実は外国資本による日本企業の買収を防御するために「企業や金融機関同士の株式の持ち合い」が進展し、高株価政策をとる事で外資の買収を阻止する政策が採用されている。

 

同政策は外資の買収を阻止するという大命題は達成できたが、大きな禍根を残す事になった。株価が大天井を付けた89年末の東証1部のPERは「70.6倍」になり、同時点でのS&P500のPERは「14.7倍」であった。PERを無視した株価形成の反動は大きく、東証株価指数は長期の下落相場の後、12年6月に大底を打つ事になる。「貯蓄から投資はなぜ起きないのか」という質問をよく受けるが、平均ベースで22年以上も下げ続けた株式市場の信頼回復には長い時間が必要だと思われる。

 

1967年の時点で松下氏が提唱されたように株式の大衆化の株価政策を推進していたら、投資主体の資産形成をする今の米国のような社会になっていたのではないか。ただ、株式持ち合い、高株価政策をとった事で外資の大掛かりな買収は阻止できたのだから、全て間違っていたとも思っていない。文字通り一長一短であろう。しかし、今年1月25日時点のPER(予想ベース)は東証1部上場企業平均で「13.4倍」、S&P500平均のPERは「15.8倍」で米国を下回る状態になっている。松下氏が提唱されてから50年以上も経っているが、株式の大衆化を進める上で、現状は絶好のタイミングだといえる。

 

また、英国のEU離脱論やトランプ氏のような異様な人物を生み出さないためにも日本社会の格差是正は急務になっている。株式の大衆化、大衆資本主義を構築し、より多くの方に資本市場に参加していただき、給与所得など以外に配当所得や株主優待の権利を享受する生活をする事が、格差の是正、より豊かな市民生活の構築につながると考察したい。

 

(北川 彰男)

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